公務員のための法律講座

問題演習を通して、法律知識のレベルアップを図ります

三軒隣が社会を作る。争いを解決するのが法の役割だ。

事例(31)

 

[M1]
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事実】 1.Aは早くに妻と死別したが,成人した一人息子のBはAのもとから離れ,音信がなくなってい た。Aは,いとこのCに家業の手伝いをしてもらっていたが,平成20年4月1日,長年のCの 支援に対する感謝として,ほとんど利用していなかったA所有の更地(時価2000万円。以下 「本件土地」という。)をCに贈与した。同日,本件土地はAからCに引き渡されたが,本件土 地の所有権の移転の登記はされなかった。 2.Cは,平成20年8月21日までに本件土地上に居住用建物(以下「本件建物」という。)を 建築して居住を開始し,同月31日には,本件建物についてCを所有者とする所有権の保存の 登記がされた。 3.平成28年3月15日,Aが遺言なしに死亡し,唯一の相続人であるBがAを相続した。Bは, Aの財産を調べたところ,Aが居住していた土地建物のほかに,A所有名義の本件土地がある こと,また,本件土地上にはCが居住するC所有名義の本件建物があることを知った。 4.Bは,多くの借金を抱えており,更なる借入れのための担保を確保しなければならなかった。 そこで,Bは,平成28年4月1日,本件土地について相続を原因とするAからBへの所有権の 移転の登記をした。さらに,同年6月1日,Bは,知人であるDとの間で,1000万円を借り 受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,1000万円を受領するとともに,これによってDに対 して負う債務(以下「本件債務」という。)の担保のために本件土地に抵当権を設定する旨の抵 当権設定契約を締結し,同日,Dを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされた。 5.BD間で【事実】4の金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約が締結された際,Bは,Dに対し, 本件建物を所有するCは本件土地を無償で借りているに過ぎないと説明した。しかし,Dは, Cが本件土地の贈与を受けていたことは知らなかったものの,念のため,対抗力のある借地権 の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価し,Bに対する貸付額を決定した。
〔設問1〕

Bが本件債務の履行を怠ったため,平成29年3月1日,Dは,本件土地について抵当権の実 行としての競売の申立てをした。競売手続の結果,本件土地は,D自らが950万円(本件債務の 残額とほぼ同額)で買い受けることとなり,同年12月1日,本件土地についてDへの所有権の移 転の登記がされた。同月15日,Dが,Cに対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すよう請 求する訴訟を提起したところ,Cは,Dの抵当権が設定される前に,Aから本件土地を贈与された のであるから,自分こそが本件土地の所有者である,仮に,Dが本件土地の所有者であるとしても, 自分には本件建物を存続させるための法律上の占有権原が認められるはずであると主張した。 この場合において,DのCに対する請求は認められるか。なお,民事執行法上の問題について は論じなくてよい。
【事実(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。) 6.平成30年10月1日,Cは,本件土地の所有権の移転の登記をしようと考え,本件土地の登 記事項証明書を入手したところ,AからBへの所有権の移転の登記及びDを抵当権者とする抵 当権の設定の登記がされていることを知った。
〔設問2〕

平成30年11月1日,Cは,Bに対し,本件土地の所有権移転登記手続を請求する訴訟を, Dに対し,本件土地の抵当権設定登記の抹消登記手続を請求する訴訟を,それぞれ提起した。 このうち,CのDに対する請求は認められるか。

[M2]
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,加工食品の輸入販売業を営む取締役会設置会社であり, かつ,監査役設置会社である。甲社は,種類株式発行会社ではなく,その定款には,譲渡による甲 社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがあるが,株主総会の定足数及び決 議要件について,別段の定めはない。 2.甲社の発行済株式の総数は200株であり,平成28年12月1日に創業者Aが急死するまでは, Aが100株を,Aの妻Bが全株式を有し代表取締役を務める乙株式会社(以下「乙社」という。) が40株を,Aの長男Cが30株を,Aの長女Dが20株を,Aの二女Eが10株を,それぞれ有 していた。 3.甲社の定款には,取締役は3人以上,監査役は1人以上とする旨の定めがあり,また,取締役及 び監査役の任期をいずれも選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株 主総会の終結の時までとする旨の定めがある。Aが死亡する直前では,A及びCが甲社の代表取締 役を,D及びEが取締役を,甲社の従業員出身Fが監査役を,それぞれ務めていた。甲社の役員構 成については,Aの死亡後も,Aが死亡により取締役を退任したこと以外に変更はない。 4.Aの死亡後,Aの全相続人であるB,C,D及びEが出席した遺産分割協議の場において,Cは, Aが有していた甲社株式100株を全てCが相続する案を提示した。しかし,Dが強く反対したた め遺産分割協議が調わず,当該株式については株主名簿の名義書換や共有株式についての権利を行 使すべき者の指定がされないままであった。 5.この頃から甲社の経営方針をめぐるCとDの対立が激しくなった。Cは,何かにつけてDを疎ん じ,甲社の経営を独断で行うようになった。Cは,甲社の経営の多角化を積極的に進めるために, 知人の経営コンサルタントに多額の報酬を支払って雑貨の輸入販売業にも進出した。しかし,その 業績は思うように伸びず,ついには多額の損失が生ずるようになった。Dは,このままでは甲社の 経営が破綻するのではないかと恐れ,平成31年3月頃,Cの経営手腕の未熟さについてBに訴え た。Bは,CとDが協力して甲社を経営していくことを望んでいたが,他方では,Cの経営手腕に 不安を抱いていたので,この際,DがCに代わって甲社の経営を担うのもやむを得ないとの考えに 至り,Dを支援することとした。 6.平成31年4月22日,乙社は,Dが全株式を有し代表取締役を務める丙株式会社(以下「丙社」 という。)との間で,乙社を分割会社,丙社を承継会社とする吸収分割(以下「本件会社分割」と いう。)を行い,これにより,乙社が有する甲社株式40株を全て丙社に承継させた。丙社は甲社 に対して株主名簿の名義書換請求をしたが,Cは甲社を代表して本件会社分割による甲社株式の取 得が甲社の取締役会の承認を得ていないことを理由にこれを拒絶した。このことがあってから,C は,Dを強く警戒するようになり,Dを甲社の経営から排除することを考え始めた。 7.令和元年5月9日にCの招集により開催された甲社の取締役会には,C,D,E及びFが出席し た。定例の報告が終わった後,Cは,決議事項として予定されていなかったDの取締役からの解任 を目的とする臨時株主総会の開催を提案した。驚いたDは激しく抵抗したが,Cは決議について特 別の利害関係を有するという理由でDを議決に参加させることなく,C及びEの賛成をもって,D の取締役からの解任を目的とする臨時株主総会を同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催す ることを決議した(以下「本件取締役会決議」という。)。
〔設問1〕 上記1から7までを前提として,本件取締役会決議の効力を争うためにDの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
8.Cは,令和元年5月10日,本件取締役会決議に基づき,乙社,C,D及びEに対し,臨時株主 総会の招集通知を発した。同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催された臨時株主総会(以 下「本件株主総会」という。)には,C,D及びEが出席したが,乙社を代表するBは病気と称し て出席しなかった。本件株主総会では,定款の定めに基づき,Cが議長となり,Dを取締役から解 任する旨の議案につき,C及びEは賛成し,Dは反対した。Dは,丙社を代表して丙社が本件会社 分割により取得した甲社株式40株についても議決権を行使して当該議案につき反対する旨主張し た。しかし,議長であるCは,これを認めず,行使された議決権60個のうち40個の賛成があっ たとして,Dを取締役から解任する旨の決議の成立を宣言した(以下「本件株主総会決議」という。)。
〔設問2〕 本件株主総会決議の効力を否定するためにDの立場において考えられる主張(〔設問1〕の本件 取締役会決議の効力に関する事項を除く。)及びその主張の当否について,論じなさい。

 

[M3] (〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,1:1)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】 Y株式会社(以下「Y」という。)は,甲土地を所有していた。X1は,自宅兼店舗を建築する 予定で土地を探し,甲土地が空き地となっていたことから,購入を考えた。X1は,娘Aの夫で事 業を引き継がせようと考えていたX2に相談し,共同で購入することとして,甲土地の購入を決め た。X1は,甲土地の購入に当たり,Yの代表取締役Bと交渉し,X1とX2(以下「X1ら」と いう。)は,Yとの間で甲土地の売買契約を締結した。X1らは,売買代金を支払ったが,Yの方 で登記手続を全く進めようとしない。そこで,X1らは,Yを相手取って,甲土地について,売買 契約に基づく所有権移転登記手続を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起した。
〔設問1〕 X1は,本件訴えの提起に際して,体調が優れなかったこともあり,X2に訴訟への対応を任せ ることとした。そのため,専らX2がX1らの訴訟代理人である弁護士Lとの打合せを行って本件 訴えを提起したが,X1は,Yに訴状が送達される前に急死してしまった。X1の唯一の相続人は Aであった。 X2は,X1から自分に訴訟対応を任されたという意識があったため,X1の死亡の事実をLに 伝えなかった。訴訟の手続はそのまま進行したが,Yは,争点整理手続終了近くになって,X1の 死亡の事実を知った。 Yは,X1の死亡の事実を知って,「本件訴えは却下されるべきである。」と主張した。
このYの主張に対し,X2側としてどのような対応をすべきであるかについて,論じなさい。
【事例(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。) 本件訴えに係る訴訟(以下「前訴」という。)においては,唯一の争点として甲土地の売買契約 の成否が争われた。裁判所は,X1ら主張の売買契約の成立を認め,X1らの請求を全て認容する 判決(以下「前訴判決」という。)を言い渡し,この判決は確定した。 しかし,Bは,前訴の口頭弁論終結前に,甲土地について処分禁止の仮処分がされていないこと を奇貨として,強制執行を免れる目的で,Bの息子Zと通謀し,YからZに対する贈与を原因とす る所有権移転登記手続をした。X1らは,前訴判決の確定後にその事実を知った。そこで,X1ら は,YとZとの間の贈与契約は虚偽表示によりされたものであると主張し,Zに対して甲土地の所 有権移転登記手続を求める訴え(以下,この訴えに係る訴訟を「後訴」という。)を提起した。Z は,後訴においてX1らとYとの間の売買契約は成立していないと主張した。
〔設問2〕 X1らは,上記のようなZの主張は前訴判決によって排斥されるべきであると考えている。X1 らの立場から,Zの主張を排斥する理論構成を展開しなさい。ただし,「信義則違反」及び「争点 効」には触れなくてよい。

 

[K1]
以下の事例に基づき,甲の罪責について論じなさい(Aに対する詐欺(未遂)罪及び特別法違反の点は除く。 ) 。
1 不動産業者甲は,某月1日,甲と私的な付き合いがあり,海外に在住し日本国内に土地(以下「本件土地」 という。時価3000万円)を所有する知人Vから,Vが登記名義人である本件土地に抵当権を設定してV のために1500万円を借りてほしいとの依頼を受けた。 甲は,同日,それを承諾し,Vから同依頼に係る代理権を付与され,本件土地の登記済証や委任事項欄の 記載がない白紙委任状等を預かった。 甲は,銀行等から合計500万円の借金を負っており,その返済期限を徒過し,返済を迫られている状況 にあったことから,本件土地の登記済証等をVから預かっていることやVが海外に在住していることを奇 貨として,本件土地をVに無断で売却し,その売却代金のうち1500万円を借入金と称してVに渡し, 残金を自己の借金の返済に充てようと考えた。 そこで,甲は,同月5日,本件土地付近の土地を欲しがっていた知人Aに対し, 「知人のVが土地を売り たがっていて,自分が代理人としてその土地の売却を頼まれているんです。その土地は,Aさんが欲しが っていた付近の土地で,2000万円という安い値段なので買いませんか。 」と言い,Aは,甲の話を信用 して本件土地を購入することとした。 その際,甲とAは,同月16日にAが2000万円を甲に渡し,それと引き換えに,甲が所有権移転登記 に必要な書類をAに交付し,同日に本件土地の所有権をAに移転させる旨合意した。甲は,同月6日,A 方に行き,同所で,本件土地の売買契約書2部の売主欄にいずれも「V代理人甲」と署名してAに渡し, Aがそれらを確認していずれの買主欄にも署名し,このように完成させた本件土地の売買契約書 2部のうち1部を甲に戻した(甲のAとの間の行為について表見代理に関する規定の適用はない ものとする。)。 2 その後,Vは,同月13日,所用により急遽帰国したが,同日,Aから本件土地に関する問い合わせを受 けたことで甲の行動を知って激怒し,同月14日,甲を呼び付け,甲に預けていた本件土地の登記済証や白 紙委任状等を回収した。その際,Vは,甲に対し, 「俺の土地を勝手に売りやがって。今すぐAの所に行っ て売買契約書を回収してこい。明後日までに回収できなければ,お前のことを警察に通報するからな。 」と 怒鳴った。 甲は,同月14日,Aに会いに行き,本件土地の売買契約書を回収させてほしいと伝えたが,Aからこ れを断られた。 3 甲は,自己に対して怒鳴っていたVの様子から,同売買契約書をAから回収できなかったことをVに伝 えれば,間違いなくVから警察に通報され,逮捕されることになるし,不動産業(宅地建物取引業)の免許 を取り消されることになるなどと考え,それらを免れるには,Vを殺すしかないと考えた。 そこで,甲は,Vを呼び出した上,Vの首を絞めて殺害し,その死体を海中に捨てることを計画し,同 月15日午後10時頃,電話でVに「話がある。 」と言って,日本におけるVの居住地の近くにある公園に Vを呼び出し,その頃,同所で,Vの首を背後から力いっぱいロープで絞めた。 それによりVは失神したが,甲は,Vが死亡したものと軽信し,その状態のVを自車に載せた上,同車 で前記公園から約1キロメートル離れた港に運び,同日午後10時半頃,同所で,Vを海に落とした。そ の時点で,Vは,失神していただけであったが,その状態で海に落とされたことにより間もなく溺死した。

[K2]
次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。
【事例】 令和元年6月5日午後2時頃,H市L町内のV方において,住居侵入,窃盗事件(以下「本件 事件」という。)が発生した。外出先から帰宅したVは,犯人がV方の机の引出しからV名義のク レジットカードを盗んでいるのを目撃し,警察に通報したが,犯人はV方から逃走した。 警察官PとQは,同月6日午前2時30分頃,V方から8キロメートル離れたL町の隣町の路 上を徘徊する,人相及び着衣が犯人と酷似する甲を認め,本件事件の犯人ではないかと考え,警 察官の応援要請をするとともに,甲を呼び止め,「ここで何をしているのか。」などと尋ねたとこ ろ,甲は,「仕事も家もなく,寝泊りする場所を探しているところだ。」と答えた。また,Pが甲 に,「昨日の午後2時頃,何をしていたか。」と尋ねたのに対し,甲は,「覚えていない。」旨曖昧 な答えに終始した。Pは,最寄りのH警察署で本件事件について甲の取調べをしようと考え,同 月6日午前3時頃,「事情聴取したいので,H警察署まで来てくれ。」と甲に言ったが,甲は,黙 ったまま立ち去ろうとした。その際,甲のズボンのポケットから,V名義のクレジットカードが 路上に落ちたため,Pが,「このカードはどうやって手に入れたのか。」と甲に尋ねたところ,甲 は,「散歩中に拾った。落とし物として届けるつもりだった。」と述べて立ち去ろうとした。そこ で,Pらは,同日午前3時5分頃,応援の警察官を含む4名の警察官で甲を取り囲んでパトカー に乗車させようとしたが,甲が,「俺は行かないぞ。」と言い,パトカーの屋根を両手でつかんで 抵抗したので,Qが,先にパトカーの後部座席に乗り込み,甲の片腕を車内から引っ張り,Pが, 甲の背中を押し,後部座席中央に甲を座らせ,その両側にPとQが甲を挟むようにして座った上, パトカーを出発させ,同日午前3時20分頃,H警察署に到着した。 Pは,H警察署の取調室において,本件事件の概要と黙秘権を告げて甲の取調べを開始した。 甲は,取調室から退出できないものと諦めて取調べには応じたものの,本件事件への関与を否認 し続けた。Pは,同日午前7時頃,H警察署に来てもらったVに,取調室にいた甲を見せ,甲が 本件事件の犯人に間違いない旨のVの供述を得た。Pらは,甲の発見時の状況やVの供述をまと めた捜査報告書等の疎明資料を直ちに準備し,同日午前8時,H簡易裁判所に本件事件を被疑事 実として通常逮捕状の請求を行い,同日午前9時,その発付を受け,同日午前9時10分,甲を 通常逮捕した。 甲は,同月7日午前8時30分,H地方検察庁検察官に送致され,送致を受けた検察官は,同日 午後1時,H地方裁判所裁判官に甲の勾留を請求し,同日,甲は,同被疑事実により,勾留された。
〔設問〕 下線部の勾留の適法性について論じなさい。ただし,刑事訴訟法第60条第1項各号該当性及 び勾留の必要性については論じなくてよい。

 

[MM]
法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】 「Aは,知人のBに対し,平成29年9月1日,弁済期を平成30年6月15日,無利息で 損害金を年10%として,200万円を貸し渡しました。AとBは,平成29年9月1日,上 記の内容があらかじめ記載されている「金銭借用証書」との題の書面に,それぞれ署名・押印 をしたとのことです(以下,この書面を「本件借用証書」という。)。加えて,本件借用証書に は,「Yが,BのAからの上記の借入れにつき,Aに対し,Bと連帯して保証する。」旨の文言 が記載されていました。AがBから聞いたところによれば,Yは,あらかじめ,本件借用証書 の「連帯保証人」欄に署名・押印をして,Bに渡しており,平成29年9月1日に上記の借入 れにつき,Bと連帯して保証したとのことです。なお,YはBのいとこであると聞いています。 ところが,弁済期である平成30年6月15日を過ぎても,BもYも,Aに何ら支払をしま せんでした。 私(X)は,Aから懇願されて,平成31年1月9日,この200万円の貸金債権とこれに 関する遅延損害金債権を,代金200万円で,Aから買い受けました。Aは,Bに対し,私に これらの債権を売ったことを記載した内容証明郵便(平成31年1月11日付け)を送り,同 郵便は同月15日にBに届いたとのことです。 ところが,その後も,BもYも,一向に支払をせず,Yは行方不明になってしまいました。 私は,まずは自分で,Bに対する訴訟を提起し,既に勝訴判決を得ましたが,全く回収するこ とができていません。今般,Yの住所が分かりましたので,Yに対しても訴訟を提起して,貸 金の元金だけでなく,その返済が遅れたことについての損害金全てにつき,Yから回収したい と考えています。」
弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,Xの希望する金員 の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することを検討することとした。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pが,本件訴訟において,Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記 載しなさい。 (2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお,付随的申立てについては,考慮す る必要はない。 (3) 弁護士Pは,本件訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし て,以下の各事実を主張した。 (あ) Aは,Bに対し,平成29年9月1日,弁済期を平成30年6月15日,損害金の割合を年 10%として,200万円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。 (い) Yは,Aとの間で,平成29年9月1日,〔①〕。 (う) (い)の〔②〕は,〔③〕による。 (え) 平成30年6月15日は経過した。

(お) 平成31年1月〔④〕。 上記①から④までに入る具体的事実を,それぞれ記載しなさい。 (4) 仮に,Xが,本件訴訟において,その請求を全部認容する判決を得て,その判決は確定したが, Yは任意に支払わず,かつ,Yは甲土地を所有しているが,それ以外のめぼしい財産はないとす る。Xの代理人である弁護士Pは,この確定判決を用いてYから回収するために,どのような手 続を経て,どのような申立てをすべきか,それぞれ簡潔に記載しなさい。
〔設問2〕 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】 「(a) 私(Y)はBのいとこに当たります。 確かに,Bからは,Bが,Xの主張する時期に,Aから200万円を借りたことはあ ると聞いています。また,Bは,Xの主張するような内容証明郵便を受け取ったと言っ ていました。しかし,私が,Bの債務を保証したことは決してありません。私は,本件 借用証書の「連帯保証人」欄に氏名を書いていませんし,誰かに指示して書かせたこと もありません。同欄に押されている印は,私が持っている実印とよく似ていますが,私 が押したり,また,誰かに指示して押させたりしたこともありません。 (b) Bによれば,この200万円の借入れの際,AとBは,AのBに対する債権をAは他 の者には譲渡しないと約束し,Xも,債権譲受時には,そのような約束があったことを 知っていたとのことです。 (c) また,仮に,(b)のような約束がなかったとしても,Bは,既に全ての責任を果たし ているはずです。 Bは,乙絵画を所有していたのですが,平成31年3月1日,乙絵画をXの自宅に持 っていって,Xに譲り渡したとのことです。Bは,乙絵画をとても気に入っていたとこ ろ,何の理由もなくこれを手放すことはあり得ないので,この200万円の借入れとそ の損害金の支払に代えて,乙絵画を譲り渡したに違いありません。」
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) ①弁護士Qは,【Yの相談内容】(b)を踏まえて,Yの訴訟代理人として,答弁書(以下「本件 答弁書」という。)において,どのような抗弁を記載するか,記載しなさい(当該抗弁を構成す る具体的事実を記載する必要はない。)。②それが抗弁となる理由を説明しなさい。 (2) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(c)を踏まえて,本件答弁書において,以下のとおり,記載した。 (ア) Bは,Xとの間で,平成31年3月1日,本件貸付の貸金元金及びこれに対する同日までの 遅延損害金の弁済に代えて,乙絵画の所有権を移転するとの合意をした。 (イ) (ア)の当時,〔 〕。 上記〔 〕に入る事実を記載しなさい。 (3) ①弁護士Qは,本件答弁書において, 【Yの相談内容】(c)に関する抗弁を主張するために,(2) の(ア)及び(イ)に加えて,Bが,Xに対し,本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張するこ とが必要か不要か,記載しなさい。②その理由を簡潔に説明しなさい。
〔設問3〕 Yが,下記のように述べているとする。①弁護士Qは,本件答弁書において,その言い分を抗弁 として主張すべきか否か,その結論を記載しなさい。②その結論を導いた理由を,その言い分が抗 弁を構成するかどうかに言及しながら,説明しなさい。記 Aが本件の貸金債権や損害金をXに譲渡したのだとしても,私は,譲渡を承諾していませんし, Aからそのような通知を受けたことはありません。確かに,Bからは,「Bは,Aから,AはXに 対して債権を売ったなどと記載された内容証明郵便を受け取った。」旨を聞いていますが,私に対 する通知がない以上,Xが債権者であると認めることはできません。
〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。同期日において,弁護士P は,本件借用証書を書証として提出し,それが取り調べられ,弁護士Qは,本件借用証書のY作成 部分につき,成立の真正を否認し,「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,Bが盗用し た。」と主張した。 その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され, Y名義の保証につき,Yは,下記【Yの供述内容】のとおり,Xは,下記【Xの供述内容】のとお り,それぞれ供述した(なお,それ以外の者の尋問は実施されていない。)。
【Yの供述内容】 「私とBは,1歳違いのいとこです。私とBは,幼少時から近所に住んでおり,家族のように 仲良くしていました。Bは,よく私の自宅(今も私はその家に住んでいます。)に遊びに来てい ました。 Bは,大学進学と同時に,他の県に引っ越し,大学卒業後も,その県で就職したので,行き 来は少なくなりましたが,気が合うので,近所に来た際には会うなどしていました。 平成29年8月中旬だったと思いますが,Bが急に私の自宅に泊まりに来て,2日間,滞在 していきました。今から思えば,その際に,本件借用証書をあらかじめ準備して,連帯保証人 欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。私が小さい頃から,私の自宅では,印鑑を含む 大事なものを寝室にあるタンスの一番上の引き出しにしまっていましたし,私の印鑑はフルネ ームのものなので,Bは,私の印鑑を容易に見つけられたと思います。この印鑑は,印鑑登録 をしている実印です。Bが滞在した2日間,私が買物などで出かけて,B一人になったことが あったので,その際にBが私の印鑑を探し出したのだと思います。 私は,出版関係の会社に正社員として勤務しています。会社の業績は余り芳しくなく,最近は ボーナスの額も減ってしまいました。私には,さしたる貯蓄はなく,保証をするはずもありませ ん。 私は,平成29年当時,Bから,保証の件につき相談を受けたことすらなく,また,Aから, 保証人となることでよいかなどの連絡を受けたこともありませんでした。 なお,本件訴訟が提起されて少し経った頃から,Bと連絡が取れなくなってしまい,今に至 っています。」
【Xの供述内容】 「YとBがいとこ同士であるとは聞いています。YとBとの付き合いの程度などは,詳しく は知りません。 Bが,平成29年8月中旬頃,Yの自宅に泊まりに来て,2日間滞在したかは分かりません が,仮に,滞在したとしても,そんなに簡単に印鑑を見つけ出せるとは思いません。 なお,Aに確認しましたら,Aは,Yの保証意思を確認するため,平成29年8月下旬,Yの 自宅に確認のための電話をしたところ,Y本人とは話をすることができませんでしたが,電話に 出たYの母親に保証の件について説明したら,『Yからそのような話を聞いている。』と言われた とのことです。」以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Pは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において,弁護士Pは,前記の提出された書証並びに前記【Yの供述内容】及び【X の供述内容】と同内容のY及びXの本人尋問における供述に基づいて,Yが保証契約を締結した事 実が認められることにつき,主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に 記載すべき内容を,提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案 用紙1頁程度の分量で記載しなさい。なお,記載に際しては,本件借用証書のY作成部分の成立の 真正に関する争いについても言及すること。

[KK]
次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。
【事例】 1 A(25歳,男性)及びB(22歳,男性)は,平成31年2月28日,「被疑者両名は, 共謀の上,平成31年2月1日午前1時頃,H県I市J町1番地先路上において,V(当時3 5歳,男性)に対し,傘の先端でその腹部を2回突いた上,足でその腹部及び脇腹等の上半身 を多数回蹴る暴行を加え,よって,同人に,全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週 間を要する腹部打撲傷の傷害を負わせた。」旨の傷害罪の被疑事実(以下「本件被疑事実」と いう。)で通常逮捕され,同年3月1日,検察官に送致された。 送致記録に編綴された主な証拠の概要は以下のとおりである(以下,日付はいずれも平成3 1年である。)。 ① Vの警察官面前の供述録取書 「2月1日午前1時頃,H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ,前から2人の男 たちが歩いてきた。その男たちのうち,1人は黒色のキャップを被り,両腕にアルファベッ トが描かれた赤色のジャンパーを着ており,もう1人は,茶髪で黒色のダウンジャケットを 着ていた。その男たちとすれ違う際,黒色キャップの男の持っていた鞄が私の体に当たった。 しかし,その男は謝ることなく通り過ぎたので,私は,『待てよ。』と言いながら,背後から 黒色キャップの男の肩に手を掛けた。すると,その男たちは振り向いて私と向かい合った。 茶髪の男が,『喧嘩売ってんのか。』などと怒鳴ってきたので,私が,『鞄が当たった。謝れ よ。』と言うと,黒色キャップの男が,『うるせえ。』などと怒鳴りながら,持っていた傘の 先端で私の腹部を突いた。私が後ずさりすると,その男は,再度,傘の先端で私の腹部を強 く突いたため,私は,痛くて両手で腹部を押さえながら前屈みになった。すると,茶髪の男 と黒色キャップの男が,私の腹部や脇腹等の上半身を足でそれぞれ多数回蹴った。私が,路 上にうずくまると,男たちは去って行った。通行人が通報してくれて救急車で病院に搬送さ れた。これらの暴行により,私は,全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要 する腹部打撲傷を負った。 犯人の男たちについて,黒色キャップの男は,目深にキャップを被っていたのでその顔は よく見えなかった。また,私は,黒色キャップの男の方を主に見ていたので,茶髪の男の顔 はよく覚えていない。」 ② 診断書 2月1日に,Vについて,全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要する腹 部打撲傷と診断した旨が記載されている。 ③ Wの警察官面前の供述録取書 「2月1日午前1時頃,H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ,怒鳴り声が聞こ えたので右後方を見ると,道路の反対側で,男が2人組の男たちと向かい合っていた。2人 組の男たちのうち,1人は,黒色のキャップを被り,両腕にアルファベットが描かれた赤色 のジャンパーを着ており,もう1人は,茶髪で黒色のダウンジャケットを着ていた。黒色キ ャップの男は,持っていた傘の先端を相手の男に向けて突き出し,相手の男の腹部を2回突 いた。すると,相手の男は両手で腹部を押さえながら前屈みになった。さらに,茶髪の男と 黒色キャップの男は,それぞれ足で相手の男の腹部や脇腹等の上半身を多数回蹴った。相手 の男がその場にうずくまると,2人組の男たちは,その場から立ち去って行った。相手の男 がうずくまったまま動かなかったので心配になって駆け寄り,救急車を呼んだ。 2人組の男たちについて,黒色キャップの男の顔は,キャップのつばで陰になってよく見 えなかった。茶髪の男の顔は,近くにあった街灯の明かりでよく見えた。今,警察官から, この写真の中に犯人がいるかもしれないし,いないかもしれないという説明を受けた上,20枚の男の写真を見せてもらったが,2番の写真の男が,『茶髪の男』に間違いない。警察 官から,この男はBであると聞いたが,知らない人である。」 ④ W立会いの実況見分調書 犯行現場の写真及び図面が添付されており,また,Wが2人組の男たちの暴行を目撃した 位置から同人らがいた位置までの距離は約8メートルであり,その間に視界を遮るようなも のはなく,付近に街灯が設置されていた旨が記載されている。 ⑤ A及びBが犯人として浮上した経緯に係る捜査報告書 犯行現場から約100メートル離れたコンビニエンスストアに設置された防犯カメラで撮 影された画像の写真が添付されており,同写真には,2月1日午前0時50分頃,黒色のキ ャップを被り,両腕にアルファベットが描かれた赤色のジャンパーを着た男と,茶髪で黒色 のダウンジャケットを着た男の2人組が訪れた状況が撮影されている。また,同画像につい て,警察官が同店の店員から聴取したところ,同人は,「以前,ここに映っている黒色キャ ップの男と茶髪の男が酔って来店し,店内で騒いだので通報した。その際,臨場した警察官 が,彼らの免許証などを確認していたので,その警察官なら彼らの名前などを知っていると 思う。」と供述したため,その臨場した警察官に確認したところ,黒色キャップの男がA, 茶髪の男がBであることが判明した旨が記載されている。 ⑥ A方及びB方の捜索差押調書 2月28日,A方及びB方の捜索を実施し,A方において,傘,黒色キャップ,両腕にア ルファベットが描かれた赤色のジャンパー及びA所有のスマートフォンを発見し,B方にお いて,黒色のダウンジャケット及びB所有のスマートフォンを発見し,これらを差し押さえ た旨がそれぞれ記載されている。 ⑦ 押収したスマートフォンに保存されたデータに関する捜査報告書 A所有及びB所有のスマートフォンのデータを精査した結果,2月2日にAがB宛てに 送信した「昨日はカラオケ店にいたことにしよう。」と記載されたメールや,同メールにB が返信した「防犯カメラとかで嘘とばれるかも。誰かに頼んで一緒にいたことにしてもら うのは?」と記載されたメールが発見された旨が記載されている。 ⑧ Aの警察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実について,私はやっていない。昨年,傷害罪で懲役刑に処せられ,現在そ の刑の執行猶予中であるため,二度と手は出さないと決めている。Bは,中学の後輩である。 2月1日午前1時頃は犯行場所とは別の場所にいたが,詳しいことは言いたくない。生活状 況について,結婚はしておらず,無職である。約1年前に家を出てからは,交際相手や友人 宅を転々としている。」 ⑨ Aの前科調書 平成30年に傷害罪で懲役刑に処せられ,3年間の執行猶予が付された旨が記載されて いる。 ⑩ Bの警察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実については間違いない。」 2 検察官は,A及びBの弁解録取手続を行い,以下の弁解録取書を作成した。 ⑪ Aの検察官面前の弁解録取書 ⑧記載の内容と同旨。 ⑫ Bの検察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実については間違いない。Vの態度に立腹し,Aが傘の先端でVの腹部を突 いた後,私とAがVの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。犯行当時,私は,茶髪で黒色の ダウンジャケットを着ており,Aは,黒色のキャップを被り,両腕にアルファベットが描か れた赤色のジャンパーを着ていた。Aは,中学の先輩で,その頃からの付き合いである。も し自分がこのように話したことが知られると,Aやその仲間の先輩たちなどから報復される かもしれない。生活状況について,結婚はしておらず,無職である。自宅で両親と住んでいる。前科はない。」 検察官は,3月1日,両名につき勾留請求と併せて接見等禁止の裁判を請求し,同日,裁判 官は,A及びBにつき本件被疑事実で勾留するとともに,㋐Aにつき接見等を禁止する旨を決 定した。 なお,Aの勾留質問調書には,Aの供述として,「本件被疑事実については検察官に述べた とおり。」と記載され,Bの勾留質問調書には,Bの供述として,「本件被疑事実については間 違いない。」と記載されている。 3 3月2日,Aの弁護人は,勾留状の謄本に記載された本件被疑事実を確認した上,Aと接見 したところ,㋑Aは,「実は,Vに暴力を振るって怪我をさせた。Bと歩いていると,いきな り後ろから肩を手でつかまれた。驚いて勢いよく振り返ったところ,手に持っていた傘の先端 が,偶然Vの腹部に1回当たり,私の肩をつかんでいたVの手が外れた。傘が当たったことに 腹を立てたVが,拳骨で殴り掛かってきたので,私は,自分がやられないように,足でVの腹 部を蹴った。それでもVは,『謝れよ。』などと言いながら両手で私の両肩をつかんで離さなか ったため,私は,Vから逃げたい一心で更にVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴った。 このとき,Bも,私を助けようとして,Vの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。」旨話した。 4 その後,検察官は,所要の捜査を行い,以下の供述録取書を作成した。 ⑬ Aの検察官面前の供述録取書 下線部㋑記載の内容と同旨。 ⑭ Bの検察官面前の供述録取書 「自分が,Vの態度に立腹してVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴って怪我をさせ たことは間違いない。このとき,Aも一緒にいたが,Aが何をしていたのかは見ていないの で分からない。」 ⑮ Wの検察官面前の供述録取書 ③記載の内容と同旨。 5 検察官は,所要の捜査を遂げ,A及びBにつき,本件被疑事実と同一の内容の公訴事実で 公訴を提起した(以下,同公訴提起に係る傷害被告事件につき,「本件被告事件」という。)。 Aの弁護人は,検察官から開示された関係証拠を閲覧した上,再度Aと接見したところ,A は,「本当は,Vの態度に腹が立って,VやWが言っているとおりの暴行を加えた。しかし, 自分は同種前科による執行猶予中なので,もし認めたら実刑になるだろうし,少しでも暴行を 加えたことを認めてしまうと,Vから損害賠償請求されるかもしれない。検察官には供述録取 書記載のとおり話してしまったが,裁判では,犯行現場にはいたものの,一切暴行を加えてい ないとして無罪を主張したい。」旨話した。 6 第1回公判期日における冒頭手続において, 【事例】の5記載の接見内容を踏まえ,Aは「犯 行現場にはいたものの,一切暴行を加えていない。」旨述べ,㋒Aの弁護人も無罪を主張した。 一方,B及びBの弁護人は,公訴事実は争わないとした。 その後,検察官が,①,②,④から⑦,⑨,⑪から⑬及び⑮記載の各証拠の取調べを請求 したところ,Aの弁護人は,①,④,⑪から⑬及び⑮記載の各証拠について「不同意」とし, その他の証拠については「同意」との意見を述べた。また,Bの弁護人は,検察官請求証拠 についてすべて「同意」との意見を述べた。 裁判所は,A及びBに対する本件被告事件を分離して審理する旨を決定し,分離後のBに 対する本件被告事件の審理を先行して行った。 7 Bは,自身の審理における被告人質問において, 「Aと歩いていたところ,いきなりVが『待 てよ。』などと言ってきたので,何か因縁を付けられたと思った私は,『喧嘩売ってんのか。』 などと言った。すると,Vは,『鞄が当たった。謝れよ。』などと言ってきたので,私は,そ の横柄な態度に腹が立った。Aが,『うるせえ。』などと怒鳴りながら,持っていた傘の先端 でVの腹部を2回突き,私は,前屈みになったVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っ た。Aも,Vの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っていた。このことは,逮捕された当初も話していたが,途中からAに報復されるのが怖くなり,検察官にきちんと話すことがで きなかった。しかし,今は,きちんと反省していることを分かってもらおうと思い,本当の ことを話した。」旨供述し,後日,結審した。 8 その後,分離後のAに対する本件被告事件の審理において,V及びWの証人尋問など所要 の証拠調べが行われ,さらに,Bの証人尋問が行われた。その際,㋓Bは,一貫して「本件 犯行時にAが一緒にいたことは間違いないが,Aが何をしていたのかは見ていないので分か らない。」旨証言した。 後日,Aは,被告人質問で,自身が暴行を加えたことを否認した。
〔設問1〕 下線部㋐に関し,裁判官が,Aにつき,刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第81 条の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を,その判断要 素を踏まえ,具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
〔設問2〕 検察官は,勾留請求時,③記載のWの警察官面前の供述録取書は,本件被疑事実記載の暴行 に及んだのがA及びBであることを立証する証拠となると考えた。A及びBそれぞれについて, 同供述録取書は直接証拠に当たるか,具体的理由を付して答えなさい。また,直接証拠に当た らない場合は,同供述録取書から,前記暴行に及んだのがAであること又は前記暴行に及んだ のがBであることが,どのように推認されるか,検察官が考えた推認過程についても答えなさ い。なお,同供述録取書に記載された供述の信用性は認められることを前提とする。
〔設問3〕 Aの弁護人は,3月2日の時点で,下線部㋑のAの話を踏まえ,仮にAが公訴提起された場 合に冒頭手続でどのような主張をするか検討した。本件被疑事実中,「傘の先端でその腹部を 2回突いた」こと及び「足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行を加え」たことに ついて,それぞれ考えられる主張を,具体的理由を付して答えなさい。
〔設問4〕 下線部㋒に関し,Aの弁護人が無罪を主張したことについて,弁護士倫理上の問題はあるか, 司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。
〔設問5〕 下線部㋓のBの証人尋問の結果を踏まえ,検察官は,新たな証拠の取調べを請求しようと考 えた。この場合において,検察官が取調べを請求しようと考えた証拠を答えなさい。また,そ の証拠について,弁護人が不同意とした場合に,検察官は,どのような対応をすべきか,根拠 条文及びその要件該当性について言及しつつ答えなさい。