公務員のための法律講座

問題演習を通して、法律知識のレベルアップを図ります

[民 法]
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事実】 1.Aは,A所有の甲建物において手作りの伝統工芸品を製作し,これを販売業者に納入する事業 を営んできたが,高齢により思うように仕事ができなくなったため,引退することにした。A は,かねてより,長年事業を支えてきた弟子のBを後継者にしたいと考えていた。そこで,A は,平成26年4月20日,Bとの間で,甲建物をBに贈与する旨の契約(以下「本件贈与契 約」という。)を書面をもって締結し,本件贈与契約に基づき甲建物をBに引き渡した。本件贈 与契約では,甲建物の所有権移転登記手続は,同年7月18日に行うこととされていたが,A は,同年6月25日に疾病により死亡した。Aには,亡妻との間に,子C,D及びEがいるが, 他に相続人はいない。なお,Aは,遺言をしておらず,また,Aには,甲建物のほかにも,自 宅建物等の不動産や預金債権等の財産があったため,甲建物の贈与によっても,C,D及びE の遺留分は侵害されていない。また,Aの死亡後も,Bは,甲建物において伝統工芸品の製作 を継続していた。 2.C及びDは,兄弟でレストランを経営していたが,その資金繰りに窮していたことから,平成 26年10月12日,Fとの間で,甲建物をFに代金2000万円で売り渡す旨の契約(以下 「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約では,甲建物の所有権移転登記手続は, 同月20日に代金の支払と引換えに行うこととされていた。本件売買契約を締結する際,C及 びDは,Fに対し,C,D及びEの間では甲建物をC及びDが取得することで協議が成立して いると説明し,その旨を確認するE名義の書面を提示するなどしたが,実際には,Eはそのよ うな話は全く聞いておらず,この書面もC及びDが偽造したものであった。 3.C及びDは,平成26年10月20日,Fに対し,Eが遠方に居住していて登記の申請に必 要な書類が揃わなかったこと等を説明した上で謝罪し,とりあえずC及びDの法定相続分に相 当する3分の2の持分について所有権移転登記をすることで許してもらいたいと懇願した。こ れに対し,Fは,約束が違うとして一旦はこれを拒絶したが,C及びDから,取引先に対する 支払期限が迫っており,その支払を遅滞すると仕入れができなくなってレストランの経営が困 難になるので,せめて代金の一部のみでも支払ってもらいたいと重ねて懇願されたことから, 甲建物の3分の2の持分についてFへの移転の登記をした上で,代金のうち1000万円を支 払うこととし,その残額については,残りの3分の1の持分と引換えに行うことに合意した。 そこで,同月末までに,C及びDは,甲建物について相続を原因として,C,D及びEが各自 3分の1の持分を有する旨の登記をした上で,この合意に従い,C及びDの各持分について, それぞれFへの移転の登記をした。 4.Fは,平成26年12月12日,甲建物を占有しているBに対し,甲建物の明渡しを求めた。 Fは,Bとの交渉を進めるうちに,本件贈与契約が締結されたことや,【事実】2の協議はされ ていなかったことを知るに至った。 Fは,その後も,話し合いによりBとの紛争を解決することを望み,Bに対し,数回にわたり, 明渡猶予期間や立退料の支払等の条件を提示したが,Bは,甲建物において現在も伝統工芸品 の製作を行っており,甲建物からの退去を前提とする交渉には応じられないとして,Fの提案 をいずれも拒絶した。 5.Eは,その後本件贈与契約の存在を知るに至り,平成27年2月12日,甲建物の3分の1 の持分について,EからBへの移転の登記をした。 6.Fは,Bが【事実】4のFの提案をいずれも拒絶したことから,平成27年3月6日,Bに 対し,甲建物の明渡しを求める訴えを提起した。
〔設問1〕 FのBに対する【事実】6の請求が認められるかどうかを検討しなさい。
〔設問2〕 Bは,Eに対し,甲建物の全部については所有権移転登記がされていないことによって受けた 損害について賠償を求めることができるかどうかを検討しなさい。なお,本件贈与契約の解除に ついて検討する必要はない。

[商 法]
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.X株式会社(以下「X社」という。)は,昭和60年に設立され,「甲荘」という名称のホテル を経営していたが,平成20年から新たに高級弁当の製造販売事業を始め,これを全国の百貨 店で販売するようになった。X社の平成26年3月末現在の資本金は5000万円,純資産額 は1億円であり,平成25年4月から平成26年3月末までの売上高は20億円,当期純利益 は5000万円である。 X社は,取締役会設置会社であり,その代表取締役は,創業時からAのみが務めている。ま た,X社の発行済株式は,A及びその親族がその70%を,Bが残り30%をいずれも創業時 から保有している。なお,Bは,X社の役員ではない。 2.X社の取締役であり,弁当事業部門本部長を務めるCは,消費期限が切れて百貨店から回収せ ざるを得ない弁当が多いことに頭を悩ませており,回収された弁当の食材の一部を再利用する よう,弁当製造工場の責任者Dに指示していた。 3.平成26年4月,上記2の指示についてDから相談を受けたAは,Cから事情を聞いた。C は,食材の再利用をDに指示していることを認めた上で,「再利用する食材は新鮮なもののみに 限定しており,かつ,衛生面には万全を期している。また,食材の再利用によって食材費をか なり節約できる。」などとAに説明した。これに対し,Aは,「衛生面には十分に気を付けるよ うに。」と述べただけであった。 4.平成26年8月,X社が製造した弁当を食べた人々におう吐,腹痛といった症状が現れたた め,X社の弁当製造工場は,直ちに保健所の調査を受けた。その結果,上記症状の原因は,再 利用した食材に大腸菌が付着していたことによる食中毒であったことが明らかとなり,X社の 弁当製造工場は,食品衛生法違反により10日間の操業停止となった。 5.X社は,損害賠償金の支払と事業継続のための資金を確保する目的で,「甲荘」の名称で営む ホテル事業の売却先を探すこととした。その結果,平成26年10月,Y株式会社(以下「Y 社」という。)に対し,ホテル事業を1億円で譲渡することとなった。X社は,その取締役会決 議を経て,株主総会を開催し,ホテル事業をY社に譲渡することに係る契約について特別決議 による承認を得た。当該特別決議は,Bを含むX社の株主全員の賛成で成立した。なお,X社 とその株主は,いずれもY社の株式を保有しておらず,X社の役員とY社の役員を兼任してい る者はいない。また,X社及びY社は,いずれもその商号中に「甲荘」の文字を使用していな い。 6.その後,Y社は,譲渡代金1億円をX社に支払い,ホテル事業に係る資産と従業員を継承し, かつ,ホテル事業に係る取引上の債務を引き受けてホテル事業を承継し,「甲荘」の経営を続け ている。1億円の譲渡代金は,債務の引受けを前提としたホテル事業の価値に見合う適正な価 額であった。 7.X社は,弁当の製造販売事業を継続していたが,売上げが伸びず,かつ,食中毒の被害者とし てX社に損害賠償を請求する者の数が予想を大幅に超え,ホテル事業の譲渡代金を含めたX社 の資産の全額によっても,被害者であるEらに対して損害の全額を賠償することができず,取 引先への弁済もできないことが明らかとなった。そこで,X社は,平成27年1月,破産手続 開始の申立てを行った。 8.Eらは,食中毒により被った損害のうち,なお1億円相当の額について賠償を受けられないで いる。また,X社の株式は,X社に係る破産手続開始の決定により,無価値となった。 9.Bは,X社の破産手続開始後,上記3の事実を知るに至った。〔設問1〕 ⑴ A及びCは,食中毒の被害者であるEらに対し,会社法上の損害賠償責任を負うかについて,論じ なさい。 ⑵ A及びCは,X社の株主であるBに対し,会社法上の損害賠償責任を負うかについて,論じなさい。
〔設問2〕 ホテル事業をX社から承継したY社は,X社のEらに対する損害賠償債務を弁済する責任を負う かについて,論じなさい。

民事訴訟法] (〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,1:1)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい(なお,解答に当たっては, 遅延損害金について考慮する必要はない。)。
【事例】 弁護士Aは,交通事故の被害者Xから法律相談を受け,次のような事実関係を聴き取り,加害者 Yに対する損害賠償請求訴訟事件を受任することになった。 1.事故の概要 Xが運転する普通自動二輪車が直進中,信号機のない前方交差点左側から右折のために同交差 点に進入してきたY運転の普通乗用自動車を避けられず,同車と接触し,転倒した。Yには,交 差点に進入する際の安全確認を怠った過失があったが,他方,Xにも前方注視を怠った過失があ った。 2.Xが主張する損害の内容 人的損害による損害額合計 1000万円 (内訳) ⑴ 財産的損害 治療費・休業損害等の額の合計 700万円 ⑵ 精神的損害 傷害慰謝料 300万円
〔設問1〕 本件交通事故によるXの人的損害には,財産的損害と精神的損害があるが,これらの損害をま とめて不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合について,訴訟物は一つであると するのが,判例最高裁判所昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁)の 立場である。判例の考え方の理論的な理由を説明した上,そのように考えることによる利点につ いて,上記の事例に即して説明しなさい。
〔設問2〕 弁護士Aは,本件の事故態様等から,過失相殺によって損害額から少なくとも3割は減額され ると考え,損害総額1000万円のうち,一部請求であることを明示して3割減額した700万 円の損害賠償を求める訴えを提起することにした。本件において,弁護士Aがこのような選択を した理由について説明しなさい。

 

常識力と感覚で

選択式問題31


憲法
〔第1問〕(配点:3)
私人間における人権保障に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には
1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№1]から[№3])
ア.「憲法の人権規定は私人間においても直接適用される」とする説のうち,私的自治の原則に
より,人権の効力は私人相互間の場合にはその本質的な核心が侵されない限度で相対化される
ことを認める見解は,こうした相対化を認める限度において,直接適用説といっても間接適用
説に類似したものになる。[№1]
イ.「憲法の人権規定は,公権力の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的
に出たもので,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とする説を前提
にすると,私人間における権利・自由の対立については,その侵害の態様,程度が社会的に許
容し得る一定の限界を超える場合に,私法規定の解釈を通じてその間の適切な調整を図ること
ができるとの見解は採り得ない。[№2]
ウ.「私人間の関係においても,相互の社会的力関係の相違から,一方が他方に優越し,事実上
後者が前者の意思に服従せざるを得ない場合,憲法の人権規定は私人間に直接適用される」と
する説について,判例は,こうした支配関係はその支配力の態様,程度,規模等において様々
であり,どのような場合にこれを国又は公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であると
している。[№3]
〔第2問〕(配点:3)
法の下の平等に関する次のアからウまでの各記述のうち,aは最高裁判所判例を要約したもの
であり,bはその批判として書かれたものである。bがaの批判となっている場合には1を,そう
でない場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№4]から[№6])
ア.a.尊属の殺害について,尊属に対する尊重報恩は,社会生活上の基本的道義であり,この
ような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は,刑法上の保護に値するから,これを刑の加
重要件とする規定を設けても,直ちに合理的な根拠を欠くものとは認められない。
b.尊属がただ尊属なるがゆえに特別の保護を受けるべきであるとの考えは,個人の尊厳と
人格価値の平等を基本とする民主主義の理念と抵触する。[№4]
イ.a.女性に対し6か月の再婚禁止期間を定める規定について,厳密に父性の推定が重複する
ことを回避するための期間を超えて婚姻を禁止することは正当化できないから,再婚禁止
期間のうち100日を超える部分は合理性を欠いた過剰な制約である。
b.子が出生した時点で法律上の父が定まらず,検査の実施や訴訟等により法律上の父を定
める場合,決定がかなり遅れる事態も想定され,それは子の利益に反する。[№5]
ウ.a.出生後に認知を受けた子について,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させると定
める規定は,準正のない子に対し,日本国民である父から胎児認知された又は母が日本国
民である非嫡出子と比較して,著しく不利益な差別的取扱いを生じさせている。
b.日本国民が母である非嫡出子は出生時において母の親権に服し,また,胎児認知は任意
認知に限られるため,出生の時点で既に血統を超えた我が国社会との結び付きがある。[№
6]
- 3 -
〔第3問〕(配点:3)
憲法第21条に関する次のアからウまでの各記述について,bの見解がaの見解の根拠となって
いる場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№7]か
ら[№9])
ア.a.「検閲」とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は
一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表
前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質とし
て備えるものであり,絶対的に禁止される。
b.大日本帝国憲法下においては,文書,図画ないし新聞,雑誌等を出版直前ないし発行時
に提出させた上,その発売,頒布を禁止する権限が内務大臣に与えられ,その運用を通じ
て実質的な検閲が行われたほか,映画フィルムにつき典型的な検閲が行われる等,思想の
自由な発表,交流が妨げられるに至った経験を有する。[№7]
イ.a.公務員又は公職選挙の候補者に対する評価,批判等の表現行為に関する出版物の公布等
の事前差止めは,原則として許されず,その表現内容が真実でなく,又はそれが専ら公益
を図る目的のものではないことが明白であって,かつ,被害者が重大にして著しく回復困
難な損害を被るおそれがあるときにのみ例外的に許される。
b.表現行為に対する事前抑制は,表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読
者等の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ,公の批判の
機会を減少させるものであり,性質上,予測に基づくものとならざるを得ないこと等から
広汎にわたりやすく,濫用のおそれがある上,実際上の抑止的効果が大きい。[№8]
ウ.a.主催者が集会を平穏に行おうとしているのに,その集会の目的や主催者の思想,信条等
に反対する者らが,これを実力で阻止し,妨害しようとして紛争を起こすおそれがあるこ
とを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは,警察の警備等によってもなお混乱を
防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる。
b.集団行動による思想等の表現は,現在する多数人の集合体自体の力によって支持されて
いるから,平穏静粛な集団であっても,一瞬にして暴徒と化し,勢いの赴くところ実力に
よって法と秩序をじゅうりんし,集団行動の指揮者はもちろん警察力を以てしても如何と
もし得ないような事態に発展する危険が存在する。[№9]
- 4 -
〔第4問〕(配点:2)
職業の自由に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所判例の趣旨に照らして,
正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選
びなさい。(解答欄は,[№10])
ア.薬局の開設につき,これを許可制とすることの目的が,国民の生命及び健康に対する危険の
防止にある場合,当該規制の合憲性を肯定するためには,それが重要な公共の利益のために必
要かつ合理的な措置であることに加え,より緩やかな規制によってはその目的を十分に達成す
ることができないと認められることも要する。
イ.個人の経済活動の自由に対して,社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るという積極
目的の規制を設けることが正当化される根拠として,国民の生存権やその一環としての勤労権
が保障されているなど,経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を行うことが憲法上の要
請とされていることを挙げることができる。
ウ.酒類販売業について免許制とすることを定めた酒税法の規定は,酒類販売業者には経済的基
盤の弱い中小事業者が多いことに照らし,酒類販売業者を相互間の過当競争による共倒れから
保護するという積極目的の規制であり,当該規制の目的に合理性が認められ,その手段・態様
も著しく不合理であることが明白であるとは認められないから,違憲ではない。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
〔第5問〕(配点:2)
生存権の法的性格に関し,国民が立法者に対して立法その他の措置を要求する権利を定めたもの
であると解するが,具体的権利性については否定する見解(いわゆる抽象的権利説)がある。この
見解に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているものには×を付
した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№11])
ア.この見解の理由として,資本主義経済においては,個人の生活について自助の原則が妥当し,
生存権を具体的権利とする前提を欠いていること,及び国が国民に生存権を保障する場合,そ
の実現には予算を伴うが,予算の配分は財政政策上の問題として国の裁量に委ねられているこ
とも挙げることができる。
イ.この見解に立つと,生活保護法に基づいて決定された保護が,正当な理由がないにもかかわ
らず不利益に変更された場合,その変更について争う裁判において,その変更が生活保護法の
規定する不利益変更禁止の原則に違反することに加え,憲法第25条にも違反するとの主張が
できる。
ウ.この見解は,憲法第25条の趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決
定は,立法府の広い裁量に委ねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・
濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しないと判示した堀木
訴訟判決(最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判決,民集36巻7号1235頁)と矛盾す
る。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 5 -
〔第6問〕(配点:2)
次の対話は,婚姻の自由に関する教授と学生の対話である。教授の各質問に対する次のアからウ
までの学生の各回答について,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,
後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№12])
教授.婚姻の自由の憲法上の位置付けについての判例としては,再婚禁止期間一部違憲判決(最
高裁判所平成27年12月16日大法廷判決,民集69巻8号2427頁)が重要ですが,
この判決はどのように述べているでしょうか。
ア.この判決は,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかは当事者間の自由かつ平等な意
思決定に委ねられるべきこと(婚姻をするについての自由)は,「憲法第24条第1項によ
って保障される」としています。
教授.再婚禁止期間を定めた当時の民法第733条の規定は,婚姻をするについての自由の直接
的な制約だとされましたが,夫婦同氏制を定める民法第750条について,夫婦同氏制合憲
判決(最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決,民集69巻8号2586頁)はどの
ように述べていますか。
イ.同条は,婚姻の効力の1つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,
婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではないとした上で,このような事実上
の制約については立法裁量の審査の際に考慮すべきであるとしています。
教授.ところで,近年,海外主要国では同性婚の権利が憲法上保障されているとする判決が出さ
れたり,法改正あるいは憲法改正によって同性婚の権利が保障される例が増えてきています。
憲法第24条第1項は,婚姻が「両性の合意のみ」に基づいて成立するとしていますが,同
条項の解釈論として,同性婚の権利はどのように考えられるでしょうか。
ウ.今,先生のおっしゃった文言を重視すれば,同性婚の権利を同条項が保障しているとする
のは難しいと思います。他方,同条項は,家制度の下での婚姻に関する戸主権を否定するこ
とを主たる趣旨とするので,この文言を過度に重視すべきではないという見解もあります。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
〔第7問〕(配点:2)
憲法の概念に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているものに
は×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№13])
ア.「固有の意味の憲法」とは,国家の統治の在り方を定めた基本法としての近代前の憲法を指
す。これに対して,「立憲的意味の憲法」とは,国家権力を制限して国民の権利を保障すると
いう思想に基づく近代以降の憲法のことをいう。
イ.「形式的意味の憲法」とは,憲法という名称を与えられた成文の法典(憲法典)を指す。こ
れに対して,「実質的意味の憲法」とは,その存在形式のいかんを問わず,内容的に憲法と観
念されるもののことをいう。
ウ.「硬性憲法」とは,日本国憲法のように,憲法改正が困難な憲法を指す。これに対して,「軟
憲法」とは,ドイツ連邦共和国基本法のように,憲法改正が容易でこれまで繰り返し改正が
成立してきた憲法のことをいう。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 6 -
〔第8問〕(配点:2)
主権に関する次のアからエまでの各記述について,正しいものの組合せを,後記1から6までの
中から選びなさい。(解答欄は,[№14])
ア.絶対王政の時代には,国家の主権と国王の主権を区別することに意味がなく,現に両者は一
体的に捉えられていた。
イ.ポツダム宣言第8項(「日本国ノ主権ハ本州,北海道,九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小
島ニ局限セラルベシ」)にいう主権は,対外的独立性の意味の主権であるとされている。
ウ.一般に連邦国家では,主権は各州に帰属し,連邦は州より委譲された範囲でしか権限を行使
し得ないため,連邦国家主権国家と呼ぶことはできないとされている。
エ.統治権という意味での主権は国家に属すると考える国家法人説は,君主主権と国民主権のど
ちらにも結び付き得る考え方である。
1.アとイ2.アとウ3.アとエ4.イとウ5.イとエ6.ウとエ
〔第9問〕(配点:2)
天皇に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには〇,誤っているものには×を
付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№15])
ア.憲法第6条第1項は,天皇が国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命する旨定めているが,
国会の議決で内閣総理大臣を指名している以上,天皇内閣総理大臣を任命するに当たって,
内閣の助言と承認は不要である。
イ.憲法第4条第2項の定める国事行為の委任は,憲法第5条の定める摂政を置く場合とは異な
り,国事行為の臨時代行に関する法律の定める事由が発生した場合に,天皇が内閣の助言と承
認に基づいて国事行為を委任するものである。
ウ.憲法第7条は,天皇の国事行為について列挙しているが,天皇の即位に際して行われる大嘗
祭は,即位の礼と同様に憲法第7条第10号の定める「儀式」に当たるから,国事行為として
行うことができる。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 7 -
〔第10問〕(配点:3)
憲法第9条に関する次のアからウまでの各記述について,bの見解がaの見解の根拠となってい
る場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№16]から
[№18])
ア.a.戦争の放棄について規定した憲法第9条第1項は,自衛のためであると侵略のためであ
るとを問わず,全ての戦争を放棄することとしたものである。
b.「国際紛争を解決する手段として」の「戦争」という文言は,戦争抛棄ニ関スル条約(い
わゆる不戦条約)に見られるような,通常の国際法上の用例に従って解釈されるべきであ
る。[№16]
イ.a.日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(いわゆる日米安保条約
に基づき日本国内に駐留するアメリカ合衆国の軍隊は,憲法第9条第2項で保持しないこ
ととされた「戦力」に該当する。
b.憲法第9条第2項が戦力の不保持を定めているのは,わが国が戦力を保持し,自らその
主体となってこれに指揮権,管理権を行使することにより,同条第1項において放棄する
とした侵略戦争を引き起こすことがないようにするためである。[№17]
ウ.a.憲法第9条に違反する具体的な立法又は行政処分により,個人に何らかの不利益が生じ
たとしても,同条で保障された個人の権利が侵害されたものということはできない。
b.憲法第9条は,前文における平和主義の原則を受けて規定されたものであり,平和達成
のための禁止事項を前文よりも具体的に列挙しているが,これは国家機関に対して一定の
行為を禁止するものであって,その保護法益は国民一般の公益である。[№18]
〔第11問〕(配点:3)
裁判所に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている
場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№19]から[№21])
ア.憲法第76条第2項前段は,「特別裁判所は,これを設置することができない。」としている
ところ,これは,司法権の強化を図るために,大日本帝国憲法下で認められていた特別裁判所
を禁止する趣旨である。そのため,法律により,司法権を行使する通常裁判所の系列に属する
下級裁判所として行政事件や労働事件を専門に扱う裁判所を設置しても,違憲とはならない。
[№19]
イ.憲法第76条第2項後段は,「行政機関は,終審として裁判を行ふことができない。」として
いるところ,前審であれば行政機関による裁判も認められる。例えば,人事院の公平審査に係
る裁決は,これを不服とする場合,司法裁判所への出訴が認められることから,違憲とはなら
ない。[№20]
ウ.判例は,憲法が定める刑事裁判の諸原則が厳格に遵守されるためには高度の法的専門性が要
求されることや,憲法が裁判官の職権行使の独立と身分保障のために周到な規定を設けている
ことなどから,憲法は,刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定しているとの見解に立
ちつつも,一般の国民を刑事裁判に参加させる裁判員制度を合憲であるとした。[№21]
- 8 -
〔第12問〕(配点:3)
日本国憲法の改正に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,
誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№22]から[№24])
ア. 憲法改正の手続において必要とされる発議とは,通常の議案についていわれる発議が原案を
提出することを意味するのとは異なり,国民に提案すべき憲法の改正案を国会が決定すること
を意味している。[№22]
イ. 国民による承認の要件として必要とされる過半数の賛成の意味については,憲法上複数の解
釈があり得たが,それらの中から,法律で,有効投票総数の過半数の賛成をいうものと定めら
れた。[№23]
ウ. 国民投票において過半数の賛成があったとしても,一定の投票率に達しなかったときは,そ
国民投票は成立せず,国民の承認を得られなかったものとする制度が,法律で設けられてい
る。[№24]
- 9 -
行政法
〔第13問〕(配点:2)
行政上の法律関係に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所判例に照らし,
正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びな
さい。(解答欄は,[№25])
ア.国家公務員の災害補償について国家公務員法や国家公務員災害補償法等に詳細な定めが置か
れていることからすると,国が国家公務員に対して,安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任
を負うとはいえない。
イ.公営住宅の使用関係については,事業主体と入居者との間の法律関係が,基本的には私人間
の家屋賃貸借関係と異なるところはないとしても,民法及び借地借家法は適用されない。
ウ.国税滞納処分における国の地位は,民事上の強制執行における差押債権者の地位に類するも
のであるから,国税滞納処分による差押えの関係においても民法第177条の適用がある。
1.ア〇イ〇ウ○ 2.ア〇イ〇ウ× 3.ア〇イ× ウ○
4.ア〇イ× ウ× 5.ア× イ〇ウ○ 6.ア× イ〇ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
〔第14問〕(配点:2)
行政行為に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所判例に照らし,正しいもの
に○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解
答欄は,[№26])
ア.行政行為の効力が生ずるのは,特段の定めのない限り,相手方が現実に当該行政行為を了知
したか,当該行政行為が相手方の了知し得べき状態に置かれたときである。
イ.行政行為がその成立時から違法であった場合,当該行政行為を行った行政庁は,その取消し
により相手方に生ずる不利益の大きさにかかわらず,当該行政行為を取り消すことができる。
ウ.行政行為がその成立時には違法でなかったものの,その後の事情の変化によりこれを存続さ
せることが公益に適合しなくなった場合,当該行政行為を行った行政庁は,法令上,その撤回
について直接明文の規定がある場合に限り,当該行政行為の効力を将来に向かって消滅させる
ことができる。
1.ア〇イ〇ウ○ 2.ア〇イ〇ウ× 3.ア〇イ× ウ○
4.ア〇イ× ウ× 5.ア× イ〇ウ○ 6.ア× イ〇ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 10 -
〔第15問〕(配点:3)
行政手続法上の処分の手続に関する次のアからエまでの各記述について,法令に照らし,それぞ
れ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[№27]
から[№30])
ア.行政庁は,申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべ
き標準的な期間を定めたときは,当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付け
その他の適当な方法により,当該期間を公にするよう努めなければならない。[№27]
イ.行政庁は,申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければな
らないが,形式上の要件に適合しない申請については,速やかに,申請をした者に対し相当の
期間を定めて当該申請の補正を求めなければならず,補正を求めることなく,申請を拒否する
処分をすることは許されない。[№28]
ウ.不利益処分に関する弁明の機会の付与の手続においては,聴聞と異なり,不利益処分の名あ
て人となるべき者は,行政庁に対して,不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求
めることはできない。[№29]
エ.不利益処分に関する聴聞の終了後,聴聞の主宰者は,聴聞調書及び報告書を作成し,行政庁
に提出するが,同時に,その写しを当事者及び参加人に送付しなければならない。[№30]
〔第16問〕(配点:3)
行政指導に関する次のアからエまでの各記述について,法令又は最高裁判所判例に照らし,そ
れぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[№
31]から[№34])
ア.行政手続法の行政指導に関する規定は,地方公共団体の機関がする行政指導にも適用される。
[№31]
イ.行政指導は,行政機関の任務又は所掌事務の範囲内であれば,行政指導をすることができる
旨を定めた明文の規定がない場合であっても,これをすることができる。[№32]
ウ.行政指導は,処分に該当しない行為であるから,必ずしも行政指導の趣旨及び内容並びに責
任者を相手方に対して明確に示すことは要しない。[№33]
エ.勧告の相手方がこれに従わなかったときに,その旨及びその勧告の内容を公表することは,
行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いに当たるから,法令上の規定がある
場合でも許されない。[№34]
- 11 -
〔第17問〕(配点:2)
行政計画に関する次のアからウまでの各記述について,法令又は最高裁判所判例に照らし,正
しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさ
い。(解答欄は,[№35])
ア.都市計画決定としての用途地域の指定は抗告訴訟の対象となる処分には当たらないため,用
途地域指定を前提とする建築確認拒否処分に対して建築主が取消訴訟を提起した場合,建築主
は当該取消訴訟において当該用途地域指定が違法であることを主張することはできない。
イ.都市計画法第13条第1項柱書きが,都市計画は公害防止計画に適合しなければならない旨
を規定していることからすれば,都市計画の決定又は変更に当たっては,都市計画法の規定の
趣旨及び目的に加えて,公害防止計画の根拠法令である環境基本法の公害防止計画に関する規
定の趣旨及び目的を踏まえて行うことが求められる。
ウ.都市計画法第61条第1号は,同法第59条の規定による都市計画事業認可の基準の一つと
して,事業の内容が都市計画に適合することを掲げているが,同号は,都市計画決定と事業内
容との適合性のみを求める趣旨であり,都市計画決定自体が適法であることまでも必要とする
趣旨ではない。
(参照条文)都市計画法
(都市計画基準)
第13条都市計画区域について定められる都市計画(中略)は,(中略)国土計画又は地方
計画に関する法律に基づく計画(当該都市について公害防止計画が定められているときは,
当該公害防止計画を含む。(中略))(中略)に適合するとともに,当該都市の特質を考慮
して,次に掲げるところに従つて,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関す
る事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合
的に定めなければならない。(以下略)
一~十九(略)
2~6(略)
(施行者)
第59条都市計画事業は,市町村が,都道府県知事(第一号法定受託事務として施行する
場合にあつては,国土交通大臣)の認可を受けて施行する。
2~7(略)
(認可等の基準)
第61条国土交通大臣又は都道府県知事は,申請手続が法令に違反せず,かつ,申請に係
る事業が次の各号に該当するときは,第59条の認可又は承認をすることができる。
一事業の内容が都市計画に適合し,かつ,事業施行期間が適切であること。
二(略)
1.ア〇イ〇ウ○ 2.ア〇イ〇ウ× 3.ア〇イ× ウ○
4.ア〇イ× ウ× 5.ア× イ〇ウ○ 6.ア× イ〇ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 12 -
〔第18問〕(配点:2)
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)に関する次のアからウ
までの各記述について,正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1か
ら8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№36])
ア.法に基づく開示請求に係る保有個人情報に,開示請求者以外の第三者に関する情報が含まれ
ているときは,行政機関の長は,当該第三者に意見書を提出する機会を与えなければならない。
イ.何人も,法に基づく開示決定により開示を受けた保有個人情報の内容が事実でないと思料す
るときは行政機関の長に対して訂正を請求することができるが,この訂正の請求は,開示を受
けた日から法定の期間内にしなければならない。
ウ.法に基づく不開示決定については,いわゆる不服申立前置の制度はとられておらず,不服を
有する者は,行政不服審査法に基づく不服申立てをせずに直接裁判所に対して取消訴訟を提起
することもできる。
1.ア〇イ〇ウ○ 2.ア〇イ〇ウ× 3.ア〇イ× ウ○
4.ア〇イ× ウ× 5.ア× イ〇ウ○ 6.ア× イ〇ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 13 -
〔第19問〕(配点:3)
訴えの利益に関する教員と学生による以下の対話中の次のアからエまでの【】内の各記述に
ついて,最高裁判所判例に照らし,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選び
なさい。(解答欄は,アからエの順に[№37]から[№40])
教員:本日は,訴えの利益に関する考え方につき整理しておきたいと思います。まず,ある行政
処分に対して取消訴訟が提起された後,訴えの利益が消滅するのはどのような場合でしょう
か,例を挙げてください。
学生:例えば,保安林指定解除処分に基づく立木竹の伐採により,保安林の存在による洪水や渇
水の防止上の利益を侵害される者には,保安林指定解除処分取消訴訟原告適格が認められ
ますが,(ア)【代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され,その防止上からは保
安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは,保安林指定解除処分の取消
しを求める訴えの利益は失われます。】[№37]
教員:では,行政手続法に基づいて公にされている処分基準が,先行する処分を受けたことを理
由として後行の処分に係る量定を加重するとの不利益な取扱いを定めている場合,先行する
営業停止命令の停止期間が経過すれば,当該営業停止命令の取消しを求める訴えの利益は失
われるのでしょうか。
学生:(イ)【通常は,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の
事情がない限り,当該処分基準に基づく不利益な取扱いがされると考えられますが,当該処
分基準は法令には当たらず,事実上不利益な取扱いがされるにすぎませんので,当該営業停
止命令の取消しを求める訴えの利益は失われます。】[№38]
教員:では,建築基準法に基づく建築確認は,それがなければ適法に建築工事をすることができ
ないという法的効果が付与されていますが,建築工事が完了した後は,建築確認の取消しを
求める訴えの利益は失われるのでしょうか。
学生:(ウ)【建築工事が完了して建築物が完成してしまうと,建築確認が違法であるとして取り
消されたとしても,社会的,経済的損失の観点からみて,社会通念上,当該建築物を除却す
ることは不可能であると考えられますが,そのような事情は,事情判決に関する規定の適用
に際して考慮されるべき事柄であって,建築確認の取消しを求める訴えの利益を消滅させる
ものではないと考えられます。】[№39]
教員:では,公務員が届出により公職の候補者となったときは,届出の日から公務員たることを
辞したものとみなすとの公職選挙法の規定がありますが,免職処分取消訴訟を提起して争っ
ている公務員が,公職の候補者となった場合には,当該免職処分の取消しを求める訴えの利
益は失われるのでしょうか。
学生:(エ)【仮に免職処分が取り消されても,当該公務員は,公務員たる地位を回復することは
できませんが,免職処分は,それが取り消されない限り効力を有し,違法な免職処分さえな
ければ公務員として有するはずであった給料請求権その他の権利,利益につき裁判所に救済
を求めることができなくなるので,当該免職処分の効力を排除する判決を求めることは,こ
れらの権利,利益を回復するための必要な手段と考えられ,当該免職処分の取消しを求める
訴えの利益は失われません。】[№40]
- 14 -
〔第20問〕(配点:3)
処分の取消しの訴えにおける判決又は審理に関する次のアからエまでの各記述について,行政事
件訴訟法に照らし,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄
は,アからエの順に[№41]から[№44])
ア.申請を却下し又は棄却した処分が判決により取り消された場合には,その処分をした行政庁
は,改めて当該申請に対する処分をしなければならないが,必ずしも当該判決の趣旨に従った
処分をする必要はない。[№41]
イ.処分を取り消す判決は第三者に対しても効力を有することから,訴訟の結果により権利を害
される第三者は,自ら訴訟参加の申立てをすることができる。[№42]
ウ.処分をした行政庁以外の行政庁は,当事者の申立て又は職権による裁判所の決定があった場
合に訴訟に参加することはできるが,自ら訴訟参加の申立てをすることはできない。[№43]
エ.処分を取り消す判決により権利を害された第三者は,自己の責めに帰することができない理
由により訴訟に参加することができなかったため判決に影響を及ぼすべき攻撃又は防御の方法
を提出することができなかったことを理由として,再審の訴えを提起することができる。[№4
4]
〔第21問〕(配点:2)
行政事件訴訟に関する次のアからウまでの各記述について,法令又は最高裁判所判例に照ら
し,正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選
びなさい。(解答欄は,[№45])
ア.職務命令の違反を理由とする懲戒処分等の不利益処分の予防を目的として,当該職務命令に
基づく公的義務が存在しないことの確認を求める訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴
えとして適法である。
イ.行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないときは,原告が当該処分に
ついての申請をしたか否かにかかわらず,適法に不作為の違法確認の訴えを提起することがで
きる。
ウ.執行機関と議決機関との関係は,地方公共団体の内部の機関相互間の関係であり,法律が内
部的解決に委ねることを不適当として特に訴えの提起を許している場合を除き,機関相互間の
権限の紛争は,訴訟の対象とはならないから,市議会議員が,市議会議員としての資格におい
て,市又は市長を被告として市議会の議決の無効又は議決の不存在の確認を求める訴えは,こ
れを許容する法律の規定がない以上,市長が市議会の議決に拘束されるとしても,不適法なも
のとして却下を免れない。
1.ア〇イ〇ウ○ 2.ア〇イ〇ウ× 3.ア〇イ× ウ○
4.ア〇イ× ウ× 5.ア× イ〇ウ○ 6.ア× イ〇ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 15 -
〔第22問〕(配点:3)
行政事件訴訟法上の仮の救済に関する次のアからエまでの各記述について,法令に照らし,それ
ぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[№
46]から[№49])
ア.処分の差止めの訴えの提起があった場合において,その差止めの訴えに係る処分がされるこ
とにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり,かつ,本案について
理由があるとみえるときは,公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合であっても,裁判所は,申
立てにより,仮の差止めをすることができる。[№46]
イ.裁判所は,本案である処分の取消訴訟の係属が,執行停止の決定の確定後,訴えの取下げに
より消滅したときは,相手方の申立て又は職権により,決定をもって,執行停止の決定を取り
消すことができる。[№47]
ウ.執行停止の申立ては,処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるた
め緊急の必要があるときは,本案の係属する裁判所以外の裁判所にすることが許される。[№4
8]
エ.執行停止の申立ての相手方は,申立てを認容する決定に対して即時抗告をすることができる
が,当該即時抗告は,その決定の執行を停止する効力を有しないから,相手方が,即時抗告後,
その決定が取り消される前に,処分の執行を継続することは許されない。[№49]
〔第23問〕(配点:2)
国家賠償法に関する次のアからウまでの各記述について,法令又は最高裁判所判例に照らし,
正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びな
さい。(解答欄は,[№50])
ア.国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行
為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して国家賠償
法第1条第1項に基づく損害賠償責任を負うときには,被用者個人は民法第709条に基づく
損害賠償責任を負わないが,使用者は同法第715条に基づく損害賠償責任を負う。
イ.国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた
場合において,それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定す
ることができなくても,それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共
団体の公務員の職務上の行為に当たるときには,国又は公共団体は,加害行為が不特定である
ことを理由に国家賠償法上の損害賠償責任を免れることはできない。
ウ.公権力の行使に当たる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については,「失
火ノ責任ニ関スル法律」は適用されず,当該公務員に重大な過失があると認められない場合で
あっても,国又は公共団体は,国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償責任を負う。
1.ア〇イ〇ウ○ 2.ア〇イ〇ウ× 3.ア〇イ× ウ○
4.ア〇イ× ウ× 5.ア× イ〇ウ○ 6.ア× イ〇ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
- 16 -
〔第24問〕(配点:3)
地方公共団体の事務と国との関係に関する次のアからエまでの各記述について,法令に照らし,
それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に
[№51]から[№54])
ア.地方公共団体の第一号法定受託事務は,国が本来果たすべき役割に係るものであって,国に
おいてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして,地方公共団体の長に委任された
事務であるから,地方公共団体の長は,国の機関としてその事務の処理を行う。[№51]
イ.各大臣は,その担任する事務に関し,都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反してい
ると認めるときは,当該都道府県に対し,その違反の是正のため必要な措置を講ずることを求
めることができ,これにより,当該都道府県は,当該措置を講ずる義務を負う。[№52]
ウ.各大臣は,その所管する法律に係る都道府県知事の事務の管理又は執行が法令の規定に違反
するものがある場合において,その事務が第一号法定受託事務であるときは,一定の要件の下
で代執行をすることができる。[№53]
エ.地方公共団体の事務の処理について,当該地方公共団体と国との間で紛争が生じた場合,国
の行政庁は,国地方係争処理委員会に対し,当該地方公共団体の執行機関を相手方として,審
査の申出をすることができる。[№54]

選択問題

〔第1問〕(配点:3) 私人間における人権保障に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には 1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№1]から[№3]) ア.「憲法の人権規定は私人間においても直接適用される」とする説のうち,私的自治の原則に より,人権の効力は私人相互間の場合にはその本質的な核心が侵されない限度で相対化される ことを認める見解は,こうした相対化を認める限度において,直接適用説といっても間接適用 説に類似したものになる。[№1] イ.「憲法の人権規定は,公権力の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的 に出たもので,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とする説を前提 にすると,私人間における権利・自由の対立については,その侵害の態様,程度が社会的に許 容し得る一定の限界を超える場合に,私法規定の解釈を通じてその間の適切な調整を図ること ができるとの見解は採り得ない。[№2] ウ.「私人間の関係においても,相互の社会的力関係の相違から,一方が他方に優越し,事実上 後者が前者の意思に服従せざるを得ない場合,憲法の人権規定は私人間に直接適用される」と する説について,判例は,こうした支配関係はその支配力の態様,程度,規模等において様々 であり,どのような場合にこれを国又は公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であると している。[№3]
〔第2問〕(配点:3) 法の下の平等に関する次のアからウまでの各記述のうち,aは最高裁判所判例を要約したもの であり,bはその批判として書かれたものである。bがaの批判となっている場合には1を,そう でない場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№4]から[№6]) ア.a.尊属の殺害について,尊属に対する尊重報恩は,社会生活上の基本的道義であり,この ような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は,刑法上の保護に値するから,これを刑の加 重要件とする規定を設けても,直ちに合理的な根拠を欠くものとは認められない。 b.尊属がただ尊属なるがゆえに特別の保護を受けるべきであるとの考えは,個人の尊厳と 人格価値の平等を基本とする民主主義の理念と抵触する。[№4] イ.a.女性に対し6か月の再婚禁止期間を定める規定について,厳密に父性の推定が重複する ことを回避するための期間を超えて婚姻を禁止することは正当化できないから,再婚禁止 期間のうち100日を超える部分は合理性を欠いた過剰な制約である。 b.子が出生した時点で法律上の父が定まらず,検査の実施や訴訟等により法律上の父を定 める場合,決定がかなり遅れる事態も想定され,それは子の利益に反する。[№5] ウ.a.出生後に認知を受けた子について,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させると定 める規定は,準正のない子に対し,日本国民である父から胎児認知された又は母が日本国 民である非嫡出子と比較して,著しく不利益な差別的取扱いを生じさせている。 b.日本国民が母である非嫡出子は出生時において母の親権に服し,また,胎児認知は任意 認知に限られるため,出生の時点で既に血統を超えた我が国社会との結び付きがある。 [№ 6]

 

三軒隣が社会を作る。争いを解決するのが法の役割だ。

事例(31)

 

[M1]
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事実】 1.Aは早くに妻と死別したが,成人した一人息子のBはAのもとから離れ,音信がなくなってい た。Aは,いとこのCに家業の手伝いをしてもらっていたが,平成20年4月1日,長年のCの 支援に対する感謝として,ほとんど利用していなかったA所有の更地(時価2000万円。以下 「本件土地」という。)をCに贈与した。同日,本件土地はAからCに引き渡されたが,本件土 地の所有権の移転の登記はされなかった。 2.Cは,平成20年8月21日までに本件土地上に居住用建物(以下「本件建物」という。)を 建築して居住を開始し,同月31日には,本件建物についてCを所有者とする所有権の保存の 登記がされた。 3.平成28年3月15日,Aが遺言なしに死亡し,唯一の相続人であるBがAを相続した。Bは, Aの財産を調べたところ,Aが居住していた土地建物のほかに,A所有名義の本件土地がある こと,また,本件土地上にはCが居住するC所有名義の本件建物があることを知った。 4.Bは,多くの借金を抱えており,更なる借入れのための担保を確保しなければならなかった。 そこで,Bは,平成28年4月1日,本件土地について相続を原因とするAからBへの所有権の 移転の登記をした。さらに,同年6月1日,Bは,知人であるDとの間で,1000万円を借り 受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,1000万円を受領するとともに,これによってDに対 して負う債務(以下「本件債務」という。)の担保のために本件土地に抵当権を設定する旨の抵 当権設定契約を締結し,同日,Dを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされた。 5.BD間で【事実】4の金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約が締結された際,Bは,Dに対し, 本件建物を所有するCは本件土地を無償で借りているに過ぎないと説明した。しかし,Dは, Cが本件土地の贈与を受けていたことは知らなかったものの,念のため,対抗力のある借地権 の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価し,Bに対する貸付額を決定した。
〔設問1〕

Bが本件債務の履行を怠ったため,平成29年3月1日,Dは,本件土地について抵当権の実 行としての競売の申立てをした。競売手続の結果,本件土地は,D自らが950万円(本件債務の 残額とほぼ同額)で買い受けることとなり,同年12月1日,本件土地についてDへの所有権の移 転の登記がされた。同月15日,Dが,Cに対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すよう請 求する訴訟を提起したところ,Cは,Dの抵当権が設定される前に,Aから本件土地を贈与された のであるから,自分こそが本件土地の所有者である,仮に,Dが本件土地の所有者であるとしても, 自分には本件建物を存続させるための法律上の占有権原が認められるはずであると主張した。 この場合において,DのCに対する請求は認められるか。なお,民事執行法上の問題について は論じなくてよい。
【事実(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。) 6.平成30年10月1日,Cは,本件土地の所有権の移転の登記をしようと考え,本件土地の登 記事項証明書を入手したところ,AからBへの所有権の移転の登記及びDを抵当権者とする抵 当権の設定の登記がされていることを知った。
〔設問2〕

平成30年11月1日,Cは,Bに対し,本件土地の所有権移転登記手続を請求する訴訟を, Dに対し,本件土地の抵当権設定登記の抹消登記手続を請求する訴訟を,それぞれ提起した。 このうち,CのDに対する請求は認められるか。

[M2]
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,加工食品の輸入販売業を営む取締役会設置会社であり, かつ,監査役設置会社である。甲社は,種類株式発行会社ではなく,その定款には,譲渡による甲 社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがあるが,株主総会の定足数及び決 議要件について,別段の定めはない。 2.甲社の発行済株式の総数は200株であり,平成28年12月1日に創業者Aが急死するまでは, Aが100株を,Aの妻Bが全株式を有し代表取締役を務める乙株式会社(以下「乙社」という。) が40株を,Aの長男Cが30株を,Aの長女Dが20株を,Aの二女Eが10株を,それぞれ有 していた。 3.甲社の定款には,取締役は3人以上,監査役は1人以上とする旨の定めがあり,また,取締役及 び監査役の任期をいずれも選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株 主総会の終結の時までとする旨の定めがある。Aが死亡する直前では,A及びCが甲社の代表取締 役を,D及びEが取締役を,甲社の従業員出身Fが監査役を,それぞれ務めていた。甲社の役員構 成については,Aの死亡後も,Aが死亡により取締役を退任したこと以外に変更はない。 4.Aの死亡後,Aの全相続人であるB,C,D及びEが出席した遺産分割協議の場において,Cは, Aが有していた甲社株式100株を全てCが相続する案を提示した。しかし,Dが強く反対したた め遺産分割協議が調わず,当該株式については株主名簿の名義書換や共有株式についての権利を行 使すべき者の指定がされないままであった。 5.この頃から甲社の経営方針をめぐるCとDの対立が激しくなった。Cは,何かにつけてDを疎ん じ,甲社の経営を独断で行うようになった。Cは,甲社の経営の多角化を積極的に進めるために, 知人の経営コンサルタントに多額の報酬を支払って雑貨の輸入販売業にも進出した。しかし,その 業績は思うように伸びず,ついには多額の損失が生ずるようになった。Dは,このままでは甲社の 経営が破綻するのではないかと恐れ,平成31年3月頃,Cの経営手腕の未熟さについてBに訴え た。Bは,CとDが協力して甲社を経営していくことを望んでいたが,他方では,Cの経営手腕に 不安を抱いていたので,この際,DがCに代わって甲社の経営を担うのもやむを得ないとの考えに 至り,Dを支援することとした。 6.平成31年4月22日,乙社は,Dが全株式を有し代表取締役を務める丙株式会社(以下「丙社」 という。)との間で,乙社を分割会社,丙社を承継会社とする吸収分割(以下「本件会社分割」と いう。)を行い,これにより,乙社が有する甲社株式40株を全て丙社に承継させた。丙社は甲社 に対して株主名簿の名義書換請求をしたが,Cは甲社を代表して本件会社分割による甲社株式の取 得が甲社の取締役会の承認を得ていないことを理由にこれを拒絶した。このことがあってから,C は,Dを強く警戒するようになり,Dを甲社の経営から排除することを考え始めた。 7.令和元年5月9日にCの招集により開催された甲社の取締役会には,C,D,E及びFが出席し た。定例の報告が終わった後,Cは,決議事項として予定されていなかったDの取締役からの解任 を目的とする臨時株主総会の開催を提案した。驚いたDは激しく抵抗したが,Cは決議について特 別の利害関係を有するという理由でDを議決に参加させることなく,C及びEの賛成をもって,D の取締役からの解任を目的とする臨時株主総会を同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催す ることを決議した(以下「本件取締役会決議」という。)。
〔設問1〕 上記1から7までを前提として,本件取締役会決議の効力を争うためにDの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
8.Cは,令和元年5月10日,本件取締役会決議に基づき,乙社,C,D及びEに対し,臨時株主 総会の招集通知を発した。同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催された臨時株主総会(以 下「本件株主総会」という。)には,C,D及びEが出席したが,乙社を代表するBは病気と称し て出席しなかった。本件株主総会では,定款の定めに基づき,Cが議長となり,Dを取締役から解 任する旨の議案につき,C及びEは賛成し,Dは反対した。Dは,丙社を代表して丙社が本件会社 分割により取得した甲社株式40株についても議決権を行使して当該議案につき反対する旨主張し た。しかし,議長であるCは,これを認めず,行使された議決権60個のうち40個の賛成があっ たとして,Dを取締役から解任する旨の決議の成立を宣言した(以下「本件株主総会決議」という。)。
〔設問2〕 本件株主総会決議の効力を否定するためにDの立場において考えられる主張(〔設問1〕の本件 取締役会決議の効力に関する事項を除く。)及びその主張の当否について,論じなさい。

 

[M3] (〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,1:1)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】 Y株式会社(以下「Y」という。)は,甲土地を所有していた。X1は,自宅兼店舗を建築する 予定で土地を探し,甲土地が空き地となっていたことから,購入を考えた。X1は,娘Aの夫で事 業を引き継がせようと考えていたX2に相談し,共同で購入することとして,甲土地の購入を決め た。X1は,甲土地の購入に当たり,Yの代表取締役Bと交渉し,X1とX2(以下「X1ら」と いう。)は,Yとの間で甲土地の売買契約を締結した。X1らは,売買代金を支払ったが,Yの方 で登記手続を全く進めようとしない。そこで,X1らは,Yを相手取って,甲土地について,売買 契約に基づく所有権移転登記手続を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起した。
〔設問1〕 X1は,本件訴えの提起に際して,体調が優れなかったこともあり,X2に訴訟への対応を任せ ることとした。そのため,専らX2がX1らの訴訟代理人である弁護士Lとの打合せを行って本件 訴えを提起したが,X1は,Yに訴状が送達される前に急死してしまった。X1の唯一の相続人は Aであった。 X2は,X1から自分に訴訟対応を任されたという意識があったため,X1の死亡の事実をLに 伝えなかった。訴訟の手続はそのまま進行したが,Yは,争点整理手続終了近くになって,X1の 死亡の事実を知った。 Yは,X1の死亡の事実を知って,「本件訴えは却下されるべきである。」と主張した。
このYの主張に対し,X2側としてどのような対応をすべきであるかについて,論じなさい。
【事例(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。) 本件訴えに係る訴訟(以下「前訴」という。)においては,唯一の争点として甲土地の売買契約 の成否が争われた。裁判所は,X1ら主張の売買契約の成立を認め,X1らの請求を全て認容する 判決(以下「前訴判決」という。)を言い渡し,この判決は確定した。 しかし,Bは,前訴の口頭弁論終結前に,甲土地について処分禁止の仮処分がされていないこと を奇貨として,強制執行を免れる目的で,Bの息子Zと通謀し,YからZに対する贈与を原因とす る所有権移転登記手続をした。X1らは,前訴判決の確定後にその事実を知った。そこで,X1ら は,YとZとの間の贈与契約は虚偽表示によりされたものであると主張し,Zに対して甲土地の所 有権移転登記手続を求める訴え(以下,この訴えに係る訴訟を「後訴」という。)を提起した。Z は,後訴においてX1らとYとの間の売買契約は成立していないと主張した。
〔設問2〕 X1らは,上記のようなZの主張は前訴判決によって排斥されるべきであると考えている。X1 らの立場から,Zの主張を排斥する理論構成を展開しなさい。ただし,「信義則違反」及び「争点 効」には触れなくてよい。

 

[K1]
以下の事例に基づき,甲の罪責について論じなさい(Aに対する詐欺(未遂)罪及び特別法違反の点は除く。 ) 。
1 不動産業者甲は,某月1日,甲と私的な付き合いがあり,海外に在住し日本国内に土地(以下「本件土地」 という。時価3000万円)を所有する知人Vから,Vが登記名義人である本件土地に抵当権を設定してV のために1500万円を借りてほしいとの依頼を受けた。 甲は,同日,それを承諾し,Vから同依頼に係る代理権を付与され,本件土地の登記済証や委任事項欄の 記載がない白紙委任状等を預かった。 甲は,銀行等から合計500万円の借金を負っており,その返済期限を徒過し,返済を迫られている状況 にあったことから,本件土地の登記済証等をVから預かっていることやVが海外に在住していることを奇 貨として,本件土地をVに無断で売却し,その売却代金のうち1500万円を借入金と称してVに渡し, 残金を自己の借金の返済に充てようと考えた。 そこで,甲は,同月5日,本件土地付近の土地を欲しがっていた知人Aに対し, 「知人のVが土地を売り たがっていて,自分が代理人としてその土地の売却を頼まれているんです。その土地は,Aさんが欲しが っていた付近の土地で,2000万円という安い値段なので買いませんか。 」と言い,Aは,甲の話を信用 して本件土地を購入することとした。 その際,甲とAは,同月16日にAが2000万円を甲に渡し,それと引き換えに,甲が所有権移転登記 に必要な書類をAに交付し,同日に本件土地の所有権をAに移転させる旨合意した。甲は,同月6日,A 方に行き,同所で,本件土地の売買契約書2部の売主欄にいずれも「V代理人甲」と署名してAに渡し, Aがそれらを確認していずれの買主欄にも署名し,このように完成させた本件土地の売買契約書 2部のうち1部を甲に戻した(甲のAとの間の行為について表見代理に関する規定の適用はない ものとする。)。 2 その後,Vは,同月13日,所用により急遽帰国したが,同日,Aから本件土地に関する問い合わせを受 けたことで甲の行動を知って激怒し,同月14日,甲を呼び付け,甲に預けていた本件土地の登記済証や白 紙委任状等を回収した。その際,Vは,甲に対し, 「俺の土地を勝手に売りやがって。今すぐAの所に行っ て売買契約書を回収してこい。明後日までに回収できなければ,お前のことを警察に通報するからな。 」と 怒鳴った。 甲は,同月14日,Aに会いに行き,本件土地の売買契約書を回収させてほしいと伝えたが,Aからこ れを断られた。 3 甲は,自己に対して怒鳴っていたVの様子から,同売買契約書をAから回収できなかったことをVに伝 えれば,間違いなくVから警察に通報され,逮捕されることになるし,不動産業(宅地建物取引業)の免許 を取り消されることになるなどと考え,それらを免れるには,Vを殺すしかないと考えた。 そこで,甲は,Vを呼び出した上,Vの首を絞めて殺害し,その死体を海中に捨てることを計画し,同 月15日午後10時頃,電話でVに「話がある。 」と言って,日本におけるVの居住地の近くにある公園に Vを呼び出し,その頃,同所で,Vの首を背後から力いっぱいロープで絞めた。 それによりVは失神したが,甲は,Vが死亡したものと軽信し,その状態のVを自車に載せた上,同車 で前記公園から約1キロメートル離れた港に運び,同日午後10時半頃,同所で,Vを海に落とした。そ の時点で,Vは,失神していただけであったが,その状態で海に落とされたことにより間もなく溺死した。

[K2]
次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。
【事例】 令和元年6月5日午後2時頃,H市L町内のV方において,住居侵入,窃盗事件(以下「本件 事件」という。)が発生した。外出先から帰宅したVは,犯人がV方の机の引出しからV名義のク レジットカードを盗んでいるのを目撃し,警察に通報したが,犯人はV方から逃走した。 警察官PとQは,同月6日午前2時30分頃,V方から8キロメートル離れたL町の隣町の路 上を徘徊する,人相及び着衣が犯人と酷似する甲を認め,本件事件の犯人ではないかと考え,警 察官の応援要請をするとともに,甲を呼び止め,「ここで何をしているのか。」などと尋ねたとこ ろ,甲は,「仕事も家もなく,寝泊りする場所を探しているところだ。」と答えた。また,Pが甲 に,「昨日の午後2時頃,何をしていたか。」と尋ねたのに対し,甲は,「覚えていない。」旨曖昧 な答えに終始した。Pは,最寄りのH警察署で本件事件について甲の取調べをしようと考え,同 月6日午前3時頃,「事情聴取したいので,H警察署まで来てくれ。」と甲に言ったが,甲は,黙 ったまま立ち去ろうとした。その際,甲のズボンのポケットから,V名義のクレジットカードが 路上に落ちたため,Pが,「このカードはどうやって手に入れたのか。」と甲に尋ねたところ,甲 は,「散歩中に拾った。落とし物として届けるつもりだった。」と述べて立ち去ろうとした。そこ で,Pらは,同日午前3時5分頃,応援の警察官を含む4名の警察官で甲を取り囲んでパトカー に乗車させようとしたが,甲が,「俺は行かないぞ。」と言い,パトカーの屋根を両手でつかんで 抵抗したので,Qが,先にパトカーの後部座席に乗り込み,甲の片腕を車内から引っ張り,Pが, 甲の背中を押し,後部座席中央に甲を座らせ,その両側にPとQが甲を挟むようにして座った上, パトカーを出発させ,同日午前3時20分頃,H警察署に到着した。 Pは,H警察署の取調室において,本件事件の概要と黙秘権を告げて甲の取調べを開始した。 甲は,取調室から退出できないものと諦めて取調べには応じたものの,本件事件への関与を否認 し続けた。Pは,同日午前7時頃,H警察署に来てもらったVに,取調室にいた甲を見せ,甲が 本件事件の犯人に間違いない旨のVの供述を得た。Pらは,甲の発見時の状況やVの供述をまと めた捜査報告書等の疎明資料を直ちに準備し,同日午前8時,H簡易裁判所に本件事件を被疑事 実として通常逮捕状の請求を行い,同日午前9時,その発付を受け,同日午前9時10分,甲を 通常逮捕した。 甲は,同月7日午前8時30分,H地方検察庁検察官に送致され,送致を受けた検察官は,同日 午後1時,H地方裁判所裁判官に甲の勾留を請求し,同日,甲は,同被疑事実により,勾留された。
〔設問〕 下線部の勾留の適法性について論じなさい。ただし,刑事訴訟法第60条第1項各号該当性及 び勾留の必要性については論じなくてよい。

 

[MM]
法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】 「Aは,知人のBに対し,平成29年9月1日,弁済期を平成30年6月15日,無利息で 損害金を年10%として,200万円を貸し渡しました。AとBは,平成29年9月1日,上 記の内容があらかじめ記載されている「金銭借用証書」との題の書面に,それぞれ署名・押印 をしたとのことです(以下,この書面を「本件借用証書」という。)。加えて,本件借用証書に は,「Yが,BのAからの上記の借入れにつき,Aに対し,Bと連帯して保証する。」旨の文言 が記載されていました。AがBから聞いたところによれば,Yは,あらかじめ,本件借用証書 の「連帯保証人」欄に署名・押印をして,Bに渡しており,平成29年9月1日に上記の借入 れにつき,Bと連帯して保証したとのことです。なお,YはBのいとこであると聞いています。 ところが,弁済期である平成30年6月15日を過ぎても,BもYも,Aに何ら支払をしま せんでした。 私(X)は,Aから懇願されて,平成31年1月9日,この200万円の貸金債権とこれに 関する遅延損害金債権を,代金200万円で,Aから買い受けました。Aは,Bに対し,私に これらの債権を売ったことを記載した内容証明郵便(平成31年1月11日付け)を送り,同 郵便は同月15日にBに届いたとのことです。 ところが,その後も,BもYも,一向に支払をせず,Yは行方不明になってしまいました。 私は,まずは自分で,Bに対する訴訟を提起し,既に勝訴判決を得ましたが,全く回収するこ とができていません。今般,Yの住所が分かりましたので,Yに対しても訴訟を提起して,貸 金の元金だけでなく,その返済が遅れたことについての損害金全てにつき,Yから回収したい と考えています。」
弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,Xの希望する金員 の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することを検討することとした。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pが,本件訴訟において,Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記 載しなさい。 (2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお,付随的申立てについては,考慮す る必要はない。 (3) 弁護士Pは,本件訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし て,以下の各事実を主張した。 (あ) Aは,Bに対し,平成29年9月1日,弁済期を平成30年6月15日,損害金の割合を年 10%として,200万円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。 (い) Yは,Aとの間で,平成29年9月1日,〔①〕。 (う) (い)の〔②〕は,〔③〕による。 (え) 平成30年6月15日は経過した。

(お) 平成31年1月〔④〕。 上記①から④までに入る具体的事実を,それぞれ記載しなさい。 (4) 仮に,Xが,本件訴訟において,その請求を全部認容する判決を得て,その判決は確定したが, Yは任意に支払わず,かつ,Yは甲土地を所有しているが,それ以外のめぼしい財産はないとす る。Xの代理人である弁護士Pは,この確定判決を用いてYから回収するために,どのような手 続を経て,どのような申立てをすべきか,それぞれ簡潔に記載しなさい。
〔設問2〕 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】 「(a) 私(Y)はBのいとこに当たります。 確かに,Bからは,Bが,Xの主張する時期に,Aから200万円を借りたことはあ ると聞いています。また,Bは,Xの主張するような内容証明郵便を受け取ったと言っ ていました。しかし,私が,Bの債務を保証したことは決してありません。私は,本件 借用証書の「連帯保証人」欄に氏名を書いていませんし,誰かに指示して書かせたこと もありません。同欄に押されている印は,私が持っている実印とよく似ていますが,私 が押したり,また,誰かに指示して押させたりしたこともありません。 (b) Bによれば,この200万円の借入れの際,AとBは,AのBに対する債権をAは他 の者には譲渡しないと約束し,Xも,債権譲受時には,そのような約束があったことを 知っていたとのことです。 (c) また,仮に,(b)のような約束がなかったとしても,Bは,既に全ての責任を果たし ているはずです。 Bは,乙絵画を所有していたのですが,平成31年3月1日,乙絵画をXの自宅に持 っていって,Xに譲り渡したとのことです。Bは,乙絵画をとても気に入っていたとこ ろ,何の理由もなくこれを手放すことはあり得ないので,この200万円の借入れとそ の損害金の支払に代えて,乙絵画を譲り渡したに違いありません。」
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) ①弁護士Qは,【Yの相談内容】(b)を踏まえて,Yの訴訟代理人として,答弁書(以下「本件 答弁書」という。)において,どのような抗弁を記載するか,記載しなさい(当該抗弁を構成す る具体的事実を記載する必要はない。)。②それが抗弁となる理由を説明しなさい。 (2) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(c)を踏まえて,本件答弁書において,以下のとおり,記載した。 (ア) Bは,Xとの間で,平成31年3月1日,本件貸付の貸金元金及びこれに対する同日までの 遅延損害金の弁済に代えて,乙絵画の所有権を移転するとの合意をした。 (イ) (ア)の当時,〔 〕。 上記〔 〕に入る事実を記載しなさい。 (3) ①弁護士Qは,本件答弁書において, 【Yの相談内容】(c)に関する抗弁を主張するために,(2) の(ア)及び(イ)に加えて,Bが,Xに対し,本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張するこ とが必要か不要か,記載しなさい。②その理由を簡潔に説明しなさい。
〔設問3〕 Yが,下記のように述べているとする。①弁護士Qは,本件答弁書において,その言い分を抗弁 として主張すべきか否か,その結論を記載しなさい。②その結論を導いた理由を,その言い分が抗 弁を構成するかどうかに言及しながら,説明しなさい。記 Aが本件の貸金債権や損害金をXに譲渡したのだとしても,私は,譲渡を承諾していませんし, Aからそのような通知を受けたことはありません。確かに,Bからは,「Bは,Aから,AはXに 対して債権を売ったなどと記載された内容証明郵便を受け取った。」旨を聞いていますが,私に対 する通知がない以上,Xが債権者であると認めることはできません。
〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。同期日において,弁護士P は,本件借用証書を書証として提出し,それが取り調べられ,弁護士Qは,本件借用証書のY作成 部分につき,成立の真正を否認し,「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,Bが盗用し た。」と主張した。 その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され, Y名義の保証につき,Yは,下記【Yの供述内容】のとおり,Xは,下記【Xの供述内容】のとお り,それぞれ供述した(なお,それ以外の者の尋問は実施されていない。)。
【Yの供述内容】 「私とBは,1歳違いのいとこです。私とBは,幼少時から近所に住んでおり,家族のように 仲良くしていました。Bは,よく私の自宅(今も私はその家に住んでいます。)に遊びに来てい ました。 Bは,大学進学と同時に,他の県に引っ越し,大学卒業後も,その県で就職したので,行き 来は少なくなりましたが,気が合うので,近所に来た際には会うなどしていました。 平成29年8月中旬だったと思いますが,Bが急に私の自宅に泊まりに来て,2日間,滞在 していきました。今から思えば,その際に,本件借用証書をあらかじめ準備して,連帯保証人 欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。私が小さい頃から,私の自宅では,印鑑を含む 大事なものを寝室にあるタンスの一番上の引き出しにしまっていましたし,私の印鑑はフルネ ームのものなので,Bは,私の印鑑を容易に見つけられたと思います。この印鑑は,印鑑登録 をしている実印です。Bが滞在した2日間,私が買物などで出かけて,B一人になったことが あったので,その際にBが私の印鑑を探し出したのだと思います。 私は,出版関係の会社に正社員として勤務しています。会社の業績は余り芳しくなく,最近は ボーナスの額も減ってしまいました。私には,さしたる貯蓄はなく,保証をするはずもありませ ん。 私は,平成29年当時,Bから,保証の件につき相談を受けたことすらなく,また,Aから, 保証人となることでよいかなどの連絡を受けたこともありませんでした。 なお,本件訴訟が提起されて少し経った頃から,Bと連絡が取れなくなってしまい,今に至 っています。」
【Xの供述内容】 「YとBがいとこ同士であるとは聞いています。YとBとの付き合いの程度などは,詳しく は知りません。 Bが,平成29年8月中旬頃,Yの自宅に泊まりに来て,2日間滞在したかは分かりません が,仮に,滞在したとしても,そんなに簡単に印鑑を見つけ出せるとは思いません。 なお,Aに確認しましたら,Aは,Yの保証意思を確認するため,平成29年8月下旬,Yの 自宅に確認のための電話をしたところ,Y本人とは話をすることができませんでしたが,電話に 出たYの母親に保証の件について説明したら,『Yからそのような話を聞いている。』と言われた とのことです。」以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Pは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において,弁護士Pは,前記の提出された書証並びに前記【Yの供述内容】及び【X の供述内容】と同内容のY及びXの本人尋問における供述に基づいて,Yが保証契約を締結した事 実が認められることにつき,主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に 記載すべき内容を,提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案 用紙1頁程度の分量で記載しなさい。なお,記載に際しては,本件借用証書のY作成部分の成立の 真正に関する争いについても言及すること。

[KK]
次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。
【事例】 1 A(25歳,男性)及びB(22歳,男性)は,平成31年2月28日,「被疑者両名は, 共謀の上,平成31年2月1日午前1時頃,H県I市J町1番地先路上において,V(当時3 5歳,男性)に対し,傘の先端でその腹部を2回突いた上,足でその腹部及び脇腹等の上半身 を多数回蹴る暴行を加え,よって,同人に,全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週 間を要する腹部打撲傷の傷害を負わせた。」旨の傷害罪の被疑事実(以下「本件被疑事実」と いう。)で通常逮捕され,同年3月1日,検察官に送致された。 送致記録に編綴された主な証拠の概要は以下のとおりである(以下,日付はいずれも平成3 1年である。)。 ① Vの警察官面前の供述録取書 「2月1日午前1時頃,H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ,前から2人の男 たちが歩いてきた。その男たちのうち,1人は黒色のキャップを被り,両腕にアルファベッ トが描かれた赤色のジャンパーを着ており,もう1人は,茶髪で黒色のダウンジャケットを 着ていた。その男たちとすれ違う際,黒色キャップの男の持っていた鞄が私の体に当たった。 しかし,その男は謝ることなく通り過ぎたので,私は,『待てよ。』と言いながら,背後から 黒色キャップの男の肩に手を掛けた。すると,その男たちは振り向いて私と向かい合った。 茶髪の男が,『喧嘩売ってんのか。』などと怒鳴ってきたので,私が,『鞄が当たった。謝れ よ。』と言うと,黒色キャップの男が,『うるせえ。』などと怒鳴りながら,持っていた傘の 先端で私の腹部を突いた。私が後ずさりすると,その男は,再度,傘の先端で私の腹部を強 く突いたため,私は,痛くて両手で腹部を押さえながら前屈みになった。すると,茶髪の男 と黒色キャップの男が,私の腹部や脇腹等の上半身を足でそれぞれ多数回蹴った。私が,路 上にうずくまると,男たちは去って行った。通行人が通報してくれて救急車で病院に搬送さ れた。これらの暴行により,私は,全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要 する腹部打撲傷を負った。 犯人の男たちについて,黒色キャップの男は,目深にキャップを被っていたのでその顔は よく見えなかった。また,私は,黒色キャップの男の方を主に見ていたので,茶髪の男の顔 はよく覚えていない。」 ② 診断書 2月1日に,Vについて,全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要する腹 部打撲傷と診断した旨が記載されている。 ③ Wの警察官面前の供述録取書 「2月1日午前1時頃,H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ,怒鳴り声が聞こ えたので右後方を見ると,道路の反対側で,男が2人組の男たちと向かい合っていた。2人 組の男たちのうち,1人は,黒色のキャップを被り,両腕にアルファベットが描かれた赤色 のジャンパーを着ており,もう1人は,茶髪で黒色のダウンジャケットを着ていた。黒色キ ャップの男は,持っていた傘の先端を相手の男に向けて突き出し,相手の男の腹部を2回突 いた。すると,相手の男は両手で腹部を押さえながら前屈みになった。さらに,茶髪の男と 黒色キャップの男は,それぞれ足で相手の男の腹部や脇腹等の上半身を多数回蹴った。相手 の男がその場にうずくまると,2人組の男たちは,その場から立ち去って行った。相手の男 がうずくまったまま動かなかったので心配になって駆け寄り,救急車を呼んだ。 2人組の男たちについて,黒色キャップの男の顔は,キャップのつばで陰になってよく見 えなかった。茶髪の男の顔は,近くにあった街灯の明かりでよく見えた。今,警察官から, この写真の中に犯人がいるかもしれないし,いないかもしれないという説明を受けた上,20枚の男の写真を見せてもらったが,2番の写真の男が,『茶髪の男』に間違いない。警察 官から,この男はBであると聞いたが,知らない人である。」 ④ W立会いの実況見分調書 犯行現場の写真及び図面が添付されており,また,Wが2人組の男たちの暴行を目撃した 位置から同人らがいた位置までの距離は約8メートルであり,その間に視界を遮るようなも のはなく,付近に街灯が設置されていた旨が記載されている。 ⑤ A及びBが犯人として浮上した経緯に係る捜査報告書 犯行現場から約100メートル離れたコンビニエンスストアに設置された防犯カメラで撮 影された画像の写真が添付されており,同写真には,2月1日午前0時50分頃,黒色のキ ャップを被り,両腕にアルファベットが描かれた赤色のジャンパーを着た男と,茶髪で黒色 のダウンジャケットを着た男の2人組が訪れた状況が撮影されている。また,同画像につい て,警察官が同店の店員から聴取したところ,同人は,「以前,ここに映っている黒色キャ ップの男と茶髪の男が酔って来店し,店内で騒いだので通報した。その際,臨場した警察官 が,彼らの免許証などを確認していたので,その警察官なら彼らの名前などを知っていると 思う。」と供述したため,その臨場した警察官に確認したところ,黒色キャップの男がA, 茶髪の男がBであることが判明した旨が記載されている。 ⑥ A方及びB方の捜索差押調書 2月28日,A方及びB方の捜索を実施し,A方において,傘,黒色キャップ,両腕にア ルファベットが描かれた赤色のジャンパー及びA所有のスマートフォンを発見し,B方にお いて,黒色のダウンジャケット及びB所有のスマートフォンを発見し,これらを差し押さえ た旨がそれぞれ記載されている。 ⑦ 押収したスマートフォンに保存されたデータに関する捜査報告書 A所有及びB所有のスマートフォンのデータを精査した結果,2月2日にAがB宛てに 送信した「昨日はカラオケ店にいたことにしよう。」と記載されたメールや,同メールにB が返信した「防犯カメラとかで嘘とばれるかも。誰かに頼んで一緒にいたことにしてもら うのは?」と記載されたメールが発見された旨が記載されている。 ⑧ Aの警察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実について,私はやっていない。昨年,傷害罪で懲役刑に処せられ,現在そ の刑の執行猶予中であるため,二度と手は出さないと決めている。Bは,中学の後輩である。 2月1日午前1時頃は犯行場所とは別の場所にいたが,詳しいことは言いたくない。生活状 況について,結婚はしておらず,無職である。約1年前に家を出てからは,交際相手や友人 宅を転々としている。」 ⑨ Aの前科調書 平成30年に傷害罪で懲役刑に処せられ,3年間の執行猶予が付された旨が記載されて いる。 ⑩ Bの警察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実については間違いない。」 2 検察官は,A及びBの弁解録取手続を行い,以下の弁解録取書を作成した。 ⑪ Aの検察官面前の弁解録取書 ⑧記載の内容と同旨。 ⑫ Bの検察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実については間違いない。Vの態度に立腹し,Aが傘の先端でVの腹部を突 いた後,私とAがVの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。犯行当時,私は,茶髪で黒色の ダウンジャケットを着ており,Aは,黒色のキャップを被り,両腕にアルファベットが描か れた赤色のジャンパーを着ていた。Aは,中学の先輩で,その頃からの付き合いである。も し自分がこのように話したことが知られると,Aやその仲間の先輩たちなどから報復される かもしれない。生活状況について,結婚はしておらず,無職である。自宅で両親と住んでいる。前科はない。」 検察官は,3月1日,両名につき勾留請求と併せて接見等禁止の裁判を請求し,同日,裁判 官は,A及びBにつき本件被疑事実で勾留するとともに,㋐Aにつき接見等を禁止する旨を決 定した。 なお,Aの勾留質問調書には,Aの供述として,「本件被疑事実については検察官に述べた とおり。」と記載され,Bの勾留質問調書には,Bの供述として,「本件被疑事実については間 違いない。」と記載されている。 3 3月2日,Aの弁護人は,勾留状の謄本に記載された本件被疑事実を確認した上,Aと接見 したところ,㋑Aは,「実は,Vに暴力を振るって怪我をさせた。Bと歩いていると,いきな り後ろから肩を手でつかまれた。驚いて勢いよく振り返ったところ,手に持っていた傘の先端 が,偶然Vの腹部に1回当たり,私の肩をつかんでいたVの手が外れた。傘が当たったことに 腹を立てたVが,拳骨で殴り掛かってきたので,私は,自分がやられないように,足でVの腹 部を蹴った。それでもVは,『謝れよ。』などと言いながら両手で私の両肩をつかんで離さなか ったため,私は,Vから逃げたい一心で更にVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴った。 このとき,Bも,私を助けようとして,Vの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。」旨話した。 4 その後,検察官は,所要の捜査を行い,以下の供述録取書を作成した。 ⑬ Aの検察官面前の供述録取書 下線部㋑記載の内容と同旨。 ⑭ Bの検察官面前の供述録取書 「自分が,Vの態度に立腹してVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴って怪我をさせ たことは間違いない。このとき,Aも一緒にいたが,Aが何をしていたのかは見ていないの で分からない。」 ⑮ Wの検察官面前の供述録取書 ③記載の内容と同旨。 5 検察官は,所要の捜査を遂げ,A及びBにつき,本件被疑事実と同一の内容の公訴事実で 公訴を提起した(以下,同公訴提起に係る傷害被告事件につき,「本件被告事件」という。)。 Aの弁護人は,検察官から開示された関係証拠を閲覧した上,再度Aと接見したところ,A は,「本当は,Vの態度に腹が立って,VやWが言っているとおりの暴行を加えた。しかし, 自分は同種前科による執行猶予中なので,もし認めたら実刑になるだろうし,少しでも暴行を 加えたことを認めてしまうと,Vから損害賠償請求されるかもしれない。検察官には供述録取 書記載のとおり話してしまったが,裁判では,犯行現場にはいたものの,一切暴行を加えてい ないとして無罪を主張したい。」旨話した。 6 第1回公判期日における冒頭手続において, 【事例】の5記載の接見内容を踏まえ,Aは「犯 行現場にはいたものの,一切暴行を加えていない。」旨述べ,㋒Aの弁護人も無罪を主張した。 一方,B及びBの弁護人は,公訴事実は争わないとした。 その後,検察官が,①,②,④から⑦,⑨,⑪から⑬及び⑮記載の各証拠の取調べを請求 したところ,Aの弁護人は,①,④,⑪から⑬及び⑮記載の各証拠について「不同意」とし, その他の証拠については「同意」との意見を述べた。また,Bの弁護人は,検察官請求証拠 についてすべて「同意」との意見を述べた。 裁判所は,A及びBに対する本件被告事件を分離して審理する旨を決定し,分離後のBに 対する本件被告事件の審理を先行して行った。 7 Bは,自身の審理における被告人質問において, 「Aと歩いていたところ,いきなりVが『待 てよ。』などと言ってきたので,何か因縁を付けられたと思った私は,『喧嘩売ってんのか。』 などと言った。すると,Vは,『鞄が当たった。謝れよ。』などと言ってきたので,私は,そ の横柄な態度に腹が立った。Aが,『うるせえ。』などと怒鳴りながら,持っていた傘の先端 でVの腹部を2回突き,私は,前屈みになったVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っ た。Aも,Vの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っていた。このことは,逮捕された当初も話していたが,途中からAに報復されるのが怖くなり,検察官にきちんと話すことがで きなかった。しかし,今は,きちんと反省していることを分かってもらおうと思い,本当の ことを話した。」旨供述し,後日,結審した。 8 その後,分離後のAに対する本件被告事件の審理において,V及びWの証人尋問など所要 の証拠調べが行われ,さらに,Bの証人尋問が行われた。その際,㋓Bは,一貫して「本件 犯行時にAが一緒にいたことは間違いないが,Aが何をしていたのかは見ていないので分か らない。」旨証言した。 後日,Aは,被告人質問で,自身が暴行を加えたことを否認した。
〔設問1〕 下線部㋐に関し,裁判官が,Aにつき,刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第81 条の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を,その判断要 素を踏まえ,具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
〔設問2〕 検察官は,勾留請求時,③記載のWの警察官面前の供述録取書は,本件被疑事実記載の暴行 に及んだのがA及びBであることを立証する証拠となると考えた。A及びBそれぞれについて, 同供述録取書は直接証拠に当たるか,具体的理由を付して答えなさい。また,直接証拠に当た らない場合は,同供述録取書から,前記暴行に及んだのがAであること又は前記暴行に及んだ のがBであることが,どのように推認されるか,検察官が考えた推認過程についても答えなさ い。なお,同供述録取書に記載された供述の信用性は認められることを前提とする。
〔設問3〕 Aの弁護人は,3月2日の時点で,下線部㋑のAの話を踏まえ,仮にAが公訴提起された場 合に冒頭手続でどのような主張をするか検討した。本件被疑事実中,「傘の先端でその腹部を 2回突いた」こと及び「足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行を加え」たことに ついて,それぞれ考えられる主張を,具体的理由を付して答えなさい。
〔設問4〕 下線部㋒に関し,Aの弁護人が無罪を主張したことについて,弁護士倫理上の問題はあるか, 司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。
〔設問5〕 下線部㋓のBの証人尋問の結果を踏まえ,検察官は,新たな証拠の取調べを請求しようと考 えた。この場合において,検察官が取調べを請求しようと考えた証拠を答えなさい。また,そ の証拠について,弁護人が不同意とした場合に,検察官は,どのような対応をすべきか,根拠 条文及びその要件該当性について言及しつつ答えなさい。